空想お散歩紀行 静かなる場所を求めて
こんなはずでは。
男はいつもそう思っていた。
先程から、自分とすれ違う人たちが皆一様に振り返っている。
見なくても分かる。相手の視線が自分の背中に当たっていることに。
男は静けさを求めていた。
だから世界中を旅していた。どこかに自分を本当の意味で落ち着かせてくれる場所があるに違いないと信じて歩き続けていた。
世界は果てしない。そして未だに人が立ち入ったことが無い土地もある。
それには相応の理由があった。
古代の人々が封印した場所だったり、凶悪な魔物が支配している土地だったりするからだ。
男は自分の探し求める地を見つけるため、そのような危険な所にも迷わず足を踏み入れた。
だが、自分の思い描くような場所はまだ見つかっていない。
逆に、各地の封印を解いたり、魔物を倒したりすることで、本人の知名度だけはどんどんと上がっていった。
今や、彼の名前を知らない者はほとんどいないくらいだ。
だから街を歩けば、すぐに気づかれるし、時には握手とかを求められたりもする。
目的のものを求めれば求めるほど、それから離れていくかのような状況に男は悩んでいた。
(いっそのこと、こことは別の世界みたいな所に行ければいいのになあ)
それからしばらくして、彼は突然世界から姿を消す。その日、とある地下深くの古代遺跡で一つの装置が作動したのだが、それは誰も知ることは無かった。
そして、東京都の新宿で、誰も知らない男が一人歩いていた。どこか嬉しそうな顔をしながら。
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