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空想お散歩紀行 お手軽の代償

母なる地球の腕から人はついに飛び出した。
それを解放の喜びと見るか、独立への寂しさと見るかは人それぞれである。
ともかく、人類は宇宙へとその足を踏み出したのだ。
それから長い年月が経った。
今や、宇宙へ出ることはかつて人々が自分の国を出るくらいの感覚となっている。
私も仕事で頻繁に宇宙へと出る。
だがその心にワクワクするようなものはない。
今ではもはや過去の遺物となったが、かつてこの国では満員電車なる現象があったらしい。
電車が発明されたばかりの頃は、人は電車に乗るだけで大きな喜びを感じていたことだろう。
しかし、満員電車に乗る人にその気持ちはおそらくなかったはずだ。
今の私は図らずも、過去の人たちの想いを追体験している。
今回の私の仕事は、惑星サテューンに行くこと。
今や世界中の、いや宇宙のどこの映像も見れる時代だ。
ネットの動画配信サービスでは、いろいろな場所に置かれたライブカメラでその土地の映像を見ることができる。
サテューンもそのうちの一つだ。2つの太陽が雲一つない空を寄り添うように動き、砂と岩、そしてわずかな小動物だけが存在する惑星。人が住めるような環境では無いが、遠くから見る分にはおもしろいのだろう。
今回、そのサテューンに置かれたライブカメラの一つが倒れたということで、それを直しに私は宇宙に出る。
宇宙船が動き出す。しかし私には何の感慨も無い。
宇宙に出始めたばかりの時代の人たちがうらやましくなる瞬間でもあった。

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