たけなが
今までに描いてきたイラストをまとめています。
まだ空想段階みたいなお話を入れたりします。 他にもいろいろ入れます。
果物と海のショートショートなどです。
空想で作った星座のショートショートなどを集めます。
紫陽花や水に関わる話をまとめてあります。 水機関(みずからくり)を自由に操る少年が、語り部のように不思議な話をします。
遠くに住んでいる親戚から、一包みの荷物が届いた。 中を開いてみると、透明でツヤツヤした葛餅が出てきた。丸く、中のあんこが透き通った美しい見た目。 包装の中に一緒に入っていた説明書きには、秋雨葛餅(しゅううくずもち)と書かれている。 秋雨の透き通った冷たさと豊かな香りを閉じ込めた葛餅です。 窓の外で秋雨に濡れている植物の緑を表した、淡い翠色の餡が特徴です。 あたたかい飲み物と一緒にどうぞ。 親戚のメモには、美味しそうなお菓子があったので送ります、とのこと。
「なにそのパレット」 部室で絵を描いていると、隣のAが手に持っているパレットに目が行った。 「え、これ?」言いながら彼女は、そのパレットを私との間にひょいと持ちあげた。 「わ! なにこれ!?」 思わず変な声が出てしまう。パレットだと思っていたそれは、片手で持てる程度の大きさの流木だったのだ。それも、フジツボがびっしりと付いた。 集合体恐怖症の私は、声にならない声が全身を駆け抜けていくのを感じた。それは一緒に、盛大な鳥肌を引き連れていた。 ようやく振り絞った声も、泥水を
男は暗がりの中で、明かりになるものを探していた。 それはすぐに見つかった。すう、とあたりがオレンジ色に染め上げられ、彼は安堵と疲れの入り混じったため息をついた。 男はちょうど、自身の仕事から帰宅したばかりだった。 一日の疲れを吐き出すためのため息も、ほとんどその用をなさず、仕方がないので風呂へと向かうことにした。 秋の暮れの夜は肌寒く、流すシャワーの温度も高くなる。 少しずつ凍えた体が溶けていくような、角張った関節が丸くなっていくような感覚がした。 息を吸い込む
「鯨の肉、ですか?」 その料理店では、変わった食材を使った料理が楽しめると聞いてやってきた。運ばれてきた料理は、鯨の肉を使っているらしい。 「ライムを食べて育った鯨……ですか」 にわかには信じ難い話だったが、海の中で育つというライムを食べて育った鯨なのだという。海の中で育つライムなんてあるんですか? と聞いてみたけれど、ええ、あるんです。という答えしか返ってこず、僕はどうにもキツネにつままれたような心持ちだ。 ちょっと変わったものが食べてみたいと思ったけれど、これは何と
秋の夜長、外を散歩していると、甘酸っぱいにおいが漂ってきた。 なんの匂いだろうと周囲を見回してみるけれど、どこからのものかよく分からない。 首を傾げて夜空を見上げる。夜の澄んだ空気を吸い込もうとした時、あることに気づいた。 夜空に浮かぶ星の一つから、なにか透明な液体のようなものが滴っている。黄金(こがね)色に輝くそれからは、さきほど嗅いだのと同じ匂いがしている。 これが匂いの原因だったのか。そんなことを思いながら、その星を眺めていると、それの周囲の星が球状を描くよう
その昔、当時の知り合いから、星みかんというものを貰ったことがある。 「夜空から収穫するんだよ」と彼は話していた。 夜空から収穫する、というのは一体どういうことだろうと思いながらも、わたしはそれを受け取った。 見た目は、果実を包む皮が、輝くような黄色やオレンジ色。それの尻部分を指先でさいてみて、驚いた。 薄皮の内側は、夜空のような濃い紺色だったのだ。 「これ、本当に食べて大丈夫?」そんな風に訊くと彼は、 「それが星みかんの普通の状態だから大丈夫だよ」という。 わたしは
近頃、学校の近くにある海で、ある噂が立っている。 海面を泳ぐクジャクが発見されたというのだ。そんなことあるはずがない、と思った。 クジャクが現れるなら、山の中だろう。仮に海辺に現れたとしても、海面を泳ぐなんて、そんなクジャクがいるはずがない。 放課後、僕はその真偽を確かめるために、海へ向かった。もちろん、そんなことはありえないという前提で、である。 波は穏やかだった。夏の間に何度か来たことはあるけれど、秋の波は静かだ。もちろん、すぐに冬が来て、荒々しい波になるのだろ
画用紙にデッサンをしている。 時々、用紙に付いた黒鉛を拭うためにパンを使う。 そして時々、お腹がすいたタイミングでパンを齧る。 つまり、現在僕は、目の前の画用紙と一緒に、一つのパンを共有していることになる。 同じ釜の飯を食っているわけではないけれど、なぜか目の前の画用紙に親近感を抱く。 それはまるで、池の鯉にエサをあげているような状態であり、僕はパンで画用紙を餌付けしているようなものなのだ。 心なしか、キャンバスがこちらに向けて優しく微笑んでいるように見えてき
とある休日、街の中を歩いていると、頭の上に何かが降ってきた。 一瞬だけ視界を掠めたそれは、小さな音を立ててどこかに転がっていった。 とても小さな音と大きさだったので、なにが降ってきたのか分からず、その正体が何だったのか探す。 ひとつだけ、これだろうかというものがあった。 ポップコーンだった。なんでこんなところに、と思ったけれど、先ほど視界を横切った物体の色もちょうどこんな色合いだった。 ということは、これが空から降ってきたのか。 そう思い、空を見上げる。 こつ
ほとんど車通りのない田舎道を車で進んでいると、時々ひどく錆びて、苔の生えたガードレールを見ることは無いだろうか。 もし家の近くにそんなガードレールがあるならば、しばらくの間観察してみてはどうだろう。 特にそれの位置や曲がり方に違和感を感じた場合、前日とは異なる位置、あるいは形になっているとき、そして、そこで前日に事故があったわけでもない場合、それはガードレー龍かもしれない。 ガードレ―龍とは、寂れた街や廃墟近くの、錆びて苔むしたガードレールに擬態する龍であり、基本的に
目が覚めると、甘い翠玉の匂いがした。 それはひんやりと肌に触れ、夏に食べた葛餅の、冷たく甘い餡子の感触を思い出させた。 窓際のカーテンは朝日を薄く引き延ばし、虹色の粒子の熱の中には黄金色の輝きが宿っている。 空気の透明度がいつもより高く感じる。 ケトルからの湯気も、水色の影が溜まる部屋の中や、その豊かさに、ホイップクリームのような白さや落ち着き、静謐さが満ちている。 きめの細かい空気の粒子をのむたびに、目に映る景色の解像度が増していく。 同時に、夢の中と現実との
青年の影は夜のような暗さを持っていた。 どんな天気の昼間でも、同じように暗闇を湛えていた。 その瞳はいつも夜空を眺めていた。そうしているうちにいつの間にか、体中に夜が、星の輝きが染み込んでいき、影にまで作用するようになったのだ。 ある日、不眠症の大富豪が、その影に目を付けた。 どうにかその影を広げて、私をその中に住まわせてくれないだろうかと申し出た。 あらゆる方法を試しても、十分に満足できる眠りを得ることのできなかった彼は、藁にもすがる思いだった。一日中夜の中に居
ワイヤレスイヤホンの形をした豆があるそうで、大きさはそら豆ほど。 生のワイヤレスイヤホン豆は、その表面をタップすると、その豆が育った土地の環境音が聞こえてくるらしい。もう一度タップすると一時停止。 風の強い土地ならその、吹きすさぶ風の音。 雨が多い土地なら、葉っぱの上に雨がぼたぼたと落ちる音。時々カエルの鳴き声が聞こえてきたりもする。 様々な音がその中に収録されており、その音をもとに作曲をするアーティストもいるくらいだ。 それを甘納豆にしたお菓子があるらしく、さら
星を飼うときには、気をつけなければいけないことがある。 星の″体質″にあった餌を与えることだ。 地球型惑星には、地球型惑星の、木星型惑星には木星型惑星の、天王星型惑星には天王星型惑星の体質にあった餌を与えるのが肝要である。 地球型惑星には、鉄やニッケルを多く含む餌を、木星型惑星には、水素やヘリウムを多く含む餌を、天王星型惑星には、メタンやアンモニアを含む餌を与えるのが望ましい。 時々宇宙に放してあげ、自由に散歩できるようにすると、その輝きが一層増すようになるだろう。