星みかん(ショートショート)
その昔、当時の知り合いから、星みかんというものを貰ったことがある。
「夜空から収穫するんだよ」と彼は話していた。
夜空から収穫する、というのは一体どういうことだろうと思いながらも、わたしはそれを受け取った。
見た目は、果実を包む皮が、輝くような黄色やオレンジ色。それの尻部分を指先でさいてみて、驚いた。
薄皮の内側は、夜空のような濃い紺色だったのだ。
「これ、本当に食べて大丈夫?」そんな風に訊くと彼は、
「それが星みかんの普通の状態だから大丈夫だよ」という。
わたしは意を決する。まずは繋がった薄皮の袋を半分に割る。続いて、そのうちの一つをもいで口に放り込んでみる。
少し口の中がひんやりした。それから徐々にバランスのいい甘味と酸味が、果汁とともに口いっぱいに広がる。
何度か咀嚼すると、シャリシャリという食感が伝わってきた。一体何だろう、と思う。そのまま吐き出して確認するわけにもいかず、わたしは洗面台の鏡に向かう。
口を開いてさらに驚いた。
口の中に、星が瞬いていた。もちろん、それを星と呼んでしまっていいのかはいささか疑問ではあったけれど。
けれどもし、それに何かしらの名前を付ける、あるいは別の何かに例えて表すとするなら、それはまごうことなき星だった。
星みかん。その名前の理由が分かった。果実の中に入っている小さい星の粒に由来するのだろう。
それ以降、毎年同じ時期にはその知り合いから星みかんを貰うことにしている。夜空を眺めながらかじる星みかんはなんとも格別だ。