星の影(ショートショート)
青年の影は夜のような暗さを持っていた。
どんな天気の昼間でも、同じように暗闇を湛えていた。
その瞳はいつも夜空を眺めていた。そうしているうちにいつの間にか、体中に夜が、星の輝きが染み込んでいき、影にまで作用するようになったのだ。
ある日、不眠症の大富豪が、その影に目を付けた。
どうにかその影を広げて、私をその中に住まわせてくれないだろうかと申し出た。
あらゆる方法を試しても、十分に満足できる眠りを得ることのできなかった彼は、藁にもすがる思いだった。一日中夜の中に居れば、なんとかなるのでは、と思ったわけだ。
かくして、青年の足元には大きな夜がおりて、そこで大富豪が暮らすことになった。
そんな生活をしていくうち、不思議なことに大富豪の不眠症はすっかり解消され、青年にはたくさんの金貨が送られた。
さらにはその噂を聞きつけた人々が、様々な場所から青年のもとに集まってきた。
僕も私もと、青年の影のもとにはたくさんの人が住むようになった。その場所は夜の街と呼ばれるようになった。青年がいくら動いても、そもそもの影の大きさのせいで、ずっと夜が終わらないのだ。
みんなそれぞれ、近所の店からロウソクなりランタンなりを購入してきて、それを頼りに生活するようになった。
けれど青年が、その影を、街の人達の住む場所に被せることができないところまで行かなければいけなくなったときは、少しずつ影を伸ばして大きくするようにして、影が晴れてしまわないようにした。
やがて伸び切った影は、青年の意思で切り離す事ができるようになった。
彼はこっそりと影を置いたまま、遠くの街に旅をするようになった。体についていた影は少し残しておいたので、旅をしているうちに新しく成長した。
少年が帰ってくる頃には、その街はさらに人々が集まり、大きくなっていた。
それから少年は、街の片隅で、旅で見つけた不思議なものと一緒に、ひっそりと暮らしているそう。