うろこ雲ポップ(ショートショート)
とある休日、街の中を歩いていると、頭の上に何かが降ってきた。
一瞬だけ視界を掠めたそれは、小さな音を立ててどこかに転がっていった。
とても小さな音と大きさだったので、なにが降ってきたのか分からず、その正体が何だったのか探す。
ひとつだけ、これだろうかというものがあった。
ポップコーンだった。なんでこんなところに、と思ったけれど、先ほど視界を横切った物体の色もちょうどこんな色合いだった。
ということは、これが空から降ってきたのか。
そう思い、空を見上げる。
こつん。
今度は確かにその姿が見えた。それは、一直線に僕の鼻先に飛んできて、それなりの勢いで衝突した。
「いたっ」
思わず呟いてしまう。本当はそれほど痛くなかったのだけれど、こういう時はなぜかそう言ってしまう。
はあ、とため息をついて、その衝突してきた、今は地面の上にあるそれを拾い上げる。
それはまごうことなきポップコーンだった。顔を近づけ、匂いを嗅ぐ。腐敗しているのか、そして、何味なのか。なんとなく知りたくなったのだ。
「なんだこれ」
まさに何だこれというにおいだった。
何と形容するべきだろう。別に腐敗しているとか、嫌なにおいというわけではないのだ。むしろおいしそうというか。けれど、これは……。何の匂いだったろう。
そんなことを考えながら、再び空を見上げる。
また、ポップコーンが降ってきた。その時にひとつの事実に気がついた。
どうやらこのポップコーンは、雲から飛び出してきているみたいだ。子供のころに、雲がわた菓子みたいだ、と思っていた頃のことを思い出した。
雲のふわふわした形に、あの、まさにふわふわそのものの、わた菓子をイメージしていた頃。当時の気持ちが蘇ってくる。
雲の正体がじつはポップコーン。それもそれで面白い。
……ちょっと待てよ、と思った。今、空に浮かんでいる雲の形。それをスマートフォンで検索してみる。
うろこ雲。秋空に浮かんでいるあの雲の名前は、うろこ雲というらしい。 さらに、うろこ雲は別名で鯖雲という。
そこでポップコーンのにおいに合点がいった。
「サバの塩焼きだ……」
まるで、トーマス・エジソンが、何か新しい発明のアイデアを思い付いた時みたいな声が出た。もちろん会ったこともなければ、具体的にどんな人なのかも知らないけれど。電球を発明した人、だっただろうか。といった程度。
とにかく、それくらい重要なひらめきをしたみたいに、神妙な声が出てしまった訳である。
鯖の塩焼き味のポップコーン。急に酒のつまみにでもしたくなってきた。
こんなポップコーンには出会ったことがない。
ともすれば、うろこ雲の味、もしくは”うろこ雲から生まれたポップコーン”の味が、サバの塩焼き味でもおかしくないはず。いや、おかしいだろうか。
そんなことを考えながら、すっかり夕方になった街の中。
大きくぐう、とお腹が鳴った。いたるところから、おいしそうな夕飯や、焼き肉のにおいがしてくる。