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上京して、なめられないためにアゴのしゃくれを手術で治した噺。
とっっても上京したかった。
是が非でも上京したかったのだ、僕は。
「東京の人は冷たいらしいよ」
と、言われようが
上等じゃねえか。
と、そう返す心構えであったのだ。
僕は山形出身である。
そりゃもう田舎で、周りを見れば田んぼばかりで、夜はカエルが大合唱。田んぼのあぜ道を自転車で走れば、水たまりを自転車が走って水飛沫が上がるように、大量のイナゴがぴょんぴょん跳ね上がる。
そんな場所で、
入院3日目〜情熱の薔薇〜
昨日の夜は37.1度と微熱があったが、朝には熱は引いていた。だが、気だるさは続く。
それにしても、病院の夜は長い。
9時に寝て、鼻から垂れる血が口に入ったり、鼻から血が垂れたりと、時々起きて血の痰を吐いたり、鼻に入れる綿球を変える作業をする。
何よりずっと寝ているため、腰が痛くなる。深夜バスに乗ったようななんとも寝心地が悪い感じが続く。スマホの時計を見て、まだ2時。
たまらん。
その後、う
パラパラめくる〈第7話〉(最終話)
翌日図書館へ行くと、まだ職員たちが昨日のことで盛り上がっていた。事情を聞いたのだろう。木村さんは、そっと私に近づき、「大丈夫?」と声をかけてくれた。友人代表のスピーチができないのは悲しいが、友達がいるというのは有り難いことである。だが、落ち込んでいる暇などない。私にはやるべきことがある。
職員たちの盛り上がりが一通り終わった頃合いをみて、その集団に言葉を投げかけた。
「昨日見つかったパラパラ漫
パラパラめくる〈第6話〉
いよいよ当日を迎えたわけだが、何を着ていこうと悩むほど服を持っていない。いつも職場に来ていくものと同じ、無地の襟付きシャツにズボンという出で立ちで出かけた。
見慣れない沿線の見慣れない駅で待ち合わせをしていたため、早めに家を出ることにした。とくに乗り換えを間違えることなく、少し早めに駅に着いたのだが、すでに彼女は改札の外で待っていた。彼女はいつもとは違う華やかな花柄のワンピースで、青と白のコン
パラパラめくる〈第5話〉
パラパラ漫画の作者が誰なのか分かり、作者の先生の行動もだんだんと分かってきた。先生は、週に3日から4日やってきて、昼過ぎから夕方頃まで作業をして帰る。パラパラ漫画を描いていた本は、元々あった本棚の裏側に隠していた。そうして、途中のものがバレないようにしていたのだろう。
今日はどれだけ進んだのだろう、一体どんな作品が出来上がるのだろうと私は見たい気持ちをグッと堪えて、陰ながら見守っている。近づけ
パラパラめくる〈第4話〉
私は改めて、このパラパラ漫画の作者は誰なのかを考え始めた。作者はやっぱり私が思い描いた理想で、実際にパラパラ漫画を描いたのは学生がただ暇つぶしで根気よく描いたものかもしれない。また「ジ-14」がクレームをつけたいがためにやった自作自演なのかもしれない。それは結局分からない。
過去ニ作の本はどうやら、私だけではなく他の職員もあまり知られていないようなあまり人気のない本であるようだ。そしてどちらも
パラパラめくる〈第3話〉
翌日になると噂は広がり、職員たちはパラパラ漫画という壮大な落書きの話で持ちきりだった。昨日休んでいた職員が、普段まるで話さない私に対しても興奮して話しかけてくる人もいたほどだ。
そのあとは、実際にパラパラ漫画の落書きを見て、それぞれがそれぞれの反応をしていたのだが、だいたいがニ通りに分かれた。
それは、落書きを心から怒っている人と、この落書きを楽しんでいる人である。
怒っている人は、公共の
パラパラめくる〈第2話〉
今ではコミュニケーション能力の低い私ではあるが、昔はそうではなかった。小さい頃は、ひょうきんで陽気な性格だったと母が言っていた。
ところが、小学校に入学してから、徐々に私の性格は変わってしまったのだ。なにがいけないのか分からないが、いじめにあい、人とどんどん距離をとるのが当たり前になってしまったのだ。いじめと言っても、鼻の下にあるほくろで鼻くそというあだ名で呼ばれたり、福島で田舎だったため、虫
パラパラめくる〈第1話〉
図書館という場所は私語厳禁である。だから、コミュニケーション能力の極めて低い私が働く場所として適した職業である。だって私語厳禁なんだから、コミュニケーションだって他の仕事に比べたら少ないはずである。そう思って働きはじめたのだが、イメージと違うことの方が多かった。
まず驚いたのが、図書館は思った以上にうるさい。
もちろん、働く図書館にもよるのだろうが、私が働いている図書館は、区が運営している5