春風亭昇りん

落語家。春風亭昇太一門。山形県出身。実家はりんご農家。美術、本、体験したこと書いてます。

春風亭昇りん

落語家。春風亭昇太一門。山形県出身。実家はりんご農家。美術、本、体験したこと書いてます。

マガジン

  • 副鼻腔炎の手術〜発端から匂いが戻るまで〜

    匂いが分からなくなり、入院から治るまでのお話です。

  • 落語家としての日常

    落語家として起きた身の回りのおはなし。

  • みたものきいたもの

    プライベートで行った美術館やらなんやら。 その体験を書いてます。

最近の記事

上京して、なめられないためにアゴのしゃくれを手術で治した噺。

とっっても上京したかった。 是が非でも上京したかったのだ、僕は。 「東京の人は冷たいらしいよ」 と、言われようが 上等じゃねえか。 と、そう返す心構えであったのだ。 僕は山形出身である。 そりゃもう田舎で、周りを見れば田んぼばかりで、夜はカエルが大合唱。田んぼのあぜ道を自転車で走れば、水たまりを自転車が走って水飛沫が上がるように、大量のイナゴがぴょんぴょん跳ね上がる。 そんな場所で、人見知りを爆発させながら僕は育った。 当時、僕は高校3年生。 すでに高1の時か

    • 匂いが戻ってきた

      副鼻腔炎の手術が終わり、鼻の中にあるシリコンもとり、鼻呼吸が戻ってきても、匂いは戻ってこなかった。 君のいない人生が嫌で手術を受けたのに、どうして戻ってこないの。どうして。いつになったら、もう一度君に会えるの? そう思いながら、その日も朝食を食べていたのだ。朝食の味噌汁の味噌の香りも、デザートの梨の香りもいつものごとくしない。 食べ終わり、鼻をかんだ。 そう鼻をかんだ瞬間だ。 君はさりげなく舞い降りた。 初めは気のせいかと思ったけど。 でも、確かにティッシュの匂いが

      • 匂いのない世界から

        今週の水曜日は待ち焦がれた日であった。 副鼻腔炎の手術をして、鼻にガーゼをつっこみ鼻呼吸ができない生活になり10日間。ようやく、そのガーゼを取る日がきたようだ。 鼻呼吸ができない辛さは以下の通り。 ・全てのやる気がなくなる。 ・集中しにくい。 ・食事の味が分からない。 ・口の乾燥からくる喉の痛み。 ・鼻の穴に綿球突っ込んでるので、外へ出たら 常にマスク生活。暑さで死ぬ。 とにかく嫌なことしかないのだ。 その日の夜はピザにした。ガーゼとり祝いである。匂いのある美味しい食事

        • 復帰の高座

          さきほど、退院後はじめてのの高座が終わりました。 出かける前は体調は万全と言えるものではなく、朝から気だるい。 しかも、鼻に綿球を詰めているため、外出する時はもちろんマスクを着用。この暑さでマスクは堪える。 本日高座をする神田連雀亭についた頃はもうヘロヘロである。そこから高座に上がるまでは、どうなるかな、血が垂れたらどうしようかなと、いろいろ思うことはあったのだが、上がってみたら何てことはなかった。 高座をおりる頃には体調も良くなっている。これは、落語家あるあるで高座に上

        上京して、なめられないためにアゴのしゃくれを手術で治した噺。

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        • 副鼻腔炎の手術〜発端から匂いが戻るまで〜
          8本
        • 落語家としての日常
          9本
        • みたものきいたもの
          19本

        記事

          無事に退院しました

          昨日、おかげさまで無事に退院しました。 退院しましたが、病院から自宅に帰るだけでクタクタになってしまい、うちに帰ったら37.1度。その後も頭がずーっとぼんやりしており、昼から朝まで寝てました。 今朝、熱を測ると平熱に戻っており一安心。でも、無理はできないので、今日も一日中寝ているつもりです。 明日はいよいよ高座復帰。 もちろん、このまま順調に回復すればですが。 連雀亭〈お盆特別興行〉に出演予定です。 高座時間は15分。 鼻の奥にはガーゼが詰まってますので、全編鼻濁音落

          無事に退院しました

          入院四日目

          今日は朝からひたすら眠い。 これでもかというぐらい眠い。 寝て起きて、眠いから寝て、起きてもまた眠くなるから寝るの繰り返し。 これで夜眠れなかったら嫌だから、起きたいけど眠い。あー眠い。 今日はシャワーを浴びれる予定だったのだが、もうシャワーの予約いっぱいとのことで、今日もおしぼりで体を拭く。それだけでもだいぶ楽になる。今日は看護師さんが少なく忙しそう。 鼻洗浄というのを習った。よくCMで見る鼻うがいである。鼻の奥にガーゼが詰まっており、鼻の穴に蓋をするように綿球をしてい

          入院3日目〜情熱の薔薇〜

          昨日の夜は37.1度と微熱があったが、朝には熱は引いていた。だが、気だるさは続く。 それにしても、病院の夜は長い。 9時に寝て、鼻から垂れる血が口に入ったり、鼻から血が垂れたりと、時々起きて血の痰を吐いたり、鼻に入れる綿球を変える作業をする。 何よりずっと寝ているため、腰が痛くなる。深夜バスに乗ったようななんとも寝心地が悪い感じが続く。スマホの時計を見て、まだ2時。 たまらん。 その後、うつらうつらと寝ていたのだが、今度は自分のいびきで目を覚ました。鼻で呼吸できないし

          入院3日目〜情熱の薔薇〜

          手術終了

          たくさんの方から、お言葉をいただき嬉しい限りです。励みなりました。 昨日の21時から食事はしてはいけず、水もダメ。経口補水液だけ飲む生活。なんかしょっぱい液体で美味しくはない。 それも朝の6時までで、それ以降は絶食で8時15分に手術開始という流れである。 夜は9時30分には電気を消されてしまい、なかなか眠れない。眠れないと、明日の手術のことでやはり多少不安になる。6時頃目覚めたのだが、まだ眠い。だが、寝れる気がしないし、なんか背中が痛いので、軽く柔軟をする。 いよいよ、

          今日から入院。

           今日から、副鼻腔炎の手術ということで入院することになった。  半年くらい前から臭いが鈍感になり、医者に通い始めた。もともと鼻炎だったので、鼻詰まりがひどい時は、そういう症状がよくあったのだが、今回はなかなか治らないので、医者に行くことにしたのだ。  薬を処方されてから3ヶ月、それでも治らなかった。臭いとしては、思いっきり鼻で息を吸い込んだら、かすかに食べ物の匂いがわかるくらい。食べ物はまだ分かるのだが、飲み物は分かりづらい。コーヒーは、ただの黒い飲み物である。  じゃあ

          今日から入院。

          パラパラめくる〈第7話〉(最終話)

           翌日図書館へ行くと、まだ職員たちが昨日のことで盛り上がっていた。事情を聞いたのだろう。木村さんは、そっと私に近づき、「大丈夫?」と声をかけてくれた。友人代表のスピーチができないのは悲しいが、友達がいるというのは有り難いことである。だが、落ち込んでいる暇などない。私にはやるべきことがある。  職員たちの盛り上がりが一通り終わった頃合いをみて、その集団に言葉を投げかけた。 「昨日見つかったパラパラ漫画の落書き、私が消しておきます。」 すると、そのうちの一人が、 「いつもごめんな

          パラパラめくる〈第7話〉(最終話)

          パラパラめくる〈第6話〉

           いよいよ当日を迎えたわけだが、何を着ていこうと悩むほど服を持っていない。いつも職場に来ていくものと同じ、無地の襟付きシャツにズボンという出で立ちで出かけた。  見慣れない沿線の見慣れない駅で待ち合わせをしていたため、早めに家を出ることにした。とくに乗り換えを間違えることなく、少し早めに駅に着いたのだが、すでに彼女は改札の外で待っていた。彼女はいつもとは違う華やかな花柄のワンピースで、青と白のコントラストが美しいものである。いつもと違った服装に関心してしまう。もし、また彼女と

          パラパラめくる〈第6話〉

          パラパラめくる〈第5話〉

           パラパラ漫画の作者が誰なのか分かり、作者の先生の行動もだんだんと分かってきた。先生は、週に3日から4日やってきて、昼過ぎから夕方頃まで作業をして帰る。パラパラ漫画を描いていた本は、元々あった本棚の裏側に隠していた。そうして、途中のものがバレないようにしていたのだろう。  今日はどれだけ進んだのだろう、一体どんな作品が出来上がるのだろうと私は見たい気持ちをグッと堪えて、陰ながら見守っている。近づけば先生は警戒して作業が進まないことは分かっている。私は、先生が視界に入るギリギリ

          パラパラめくる〈第5話〉

          パラパラめくる〈第4話〉

           私は改めて、このパラパラ漫画の作者は誰なのかを考え始めた。作者はやっぱり私が思い描いた理想で、実際にパラパラ漫画を描いたのは学生がただ暇つぶしで根気よく描いたものかもしれない。また「ジ-14」がクレームをつけたいがためにやった自作自演なのかもしれない。それは結局分からない。  過去ニ作の本はどうやら、私だけではなく他の職員もあまり知られていないようなあまり人気のない本であるようだ。そしてどちらも一年以上貸し出しをされていない。ということは、本を借りて家で描いている可能性は低

          パラパラめくる〈第4話〉

          パラパラめくる〈第3話〉

           翌日になると噂は広がり、職員たちはパラパラ漫画という壮大な落書きの話で持ちきりだった。昨日休んでいた職員が、普段まるで話さない私に対しても興奮して話しかけてくる人もいたほどだ。  そのあとは、実際にパラパラ漫画の落書きを見て、それぞれがそれぞれの反応をしていたのだが、だいたいがニ通りに分かれた。  それは、落書きを心から怒っている人と、この落書きを楽しんでいる人である。  怒っている人は、公共の本にこんなこと許せないと、すぐにでも犯人を見つけ出すぞという意気込みである。楽し

          パラパラめくる〈第3話〉

          パラパラめくる〈第2話〉

           今ではコミュニケーション能力の低い私ではあるが、昔はそうではなかった。小さい頃は、ひょうきんで陽気な性格だったと母が言っていた。  ところが、小学校に入学してから、徐々に私の性格は変わってしまったのだ。なにがいけないのか分からないが、いじめにあい、人とどんどん距離をとるのが当たり前になってしまったのだ。いじめと言っても、鼻の下にあるほくろで鼻くそというあだ名で呼ばれたり、福島で田舎だったため、虫を投げられたりと今思えばそれほどひどいものではなかったのだが、それが続くうちに、

          パラパラめくる〈第2話〉

          パラパラめくる〈第1話〉

           図書館という場所は私語厳禁である。だから、コミュニケーション能力の極めて低い私が働く場所として適した職業である。だって私語厳禁なんだから、コミュニケーションだって他の仕事に比べたら少ないはずである。そう思って働きはじめたのだが、イメージと違うことの方が多かった。  まず驚いたのが、図書館は思った以上にうるさい。  もちろん、働く図書館にもよるのだろうが、私が働いている図書館は、区が運営している5階建ての地域センターにある。1階と2階が図書館で、近くには小学校があり、子どもた

          パラパラめくる〈第1話〉