匂いが戻ってきた
副鼻腔炎の手術が終わり、鼻の中にあるシリコンもとり、鼻呼吸が戻ってきても、匂いは戻ってこなかった。
君のいない人生が嫌で手術を受けたのに、どうして戻ってこないの。どうして。いつになったら、もう一度君に会えるの?
そう思いながら、その日も朝食を食べていたのだ。朝食の味噌汁の味噌の香りも、デザートの梨の香りもいつものごとくしない。
食べ終わり、鼻をかんだ。
そう鼻をかんだ瞬間だ。
君はさりげなく舞い降りた。
初めは気のせいかと思ったけど。
でも、確かにティッシュの匂いがしたのだ。
食後の薬を飲む。その流れで鼻にシュッやる点鼻薬をかける。
あれ?薬の匂いがする。
部屋を出ると、台所の匂いがする。トイレへ行く。便の匂いがする。
気のせいなんかじゃない!
匂いが戻ってきた!
匂いが戻ってきた!
冷蔵庫のマミーを飲む。
ただの白い液体ではない。
マミーをマミーと自覚することができる。
気のせいか、紙パックの動物たちもいつもより楽しそうだ。
部屋から部屋に移る。
部屋の匂いが違う!
外へでる。
うだるような暑さ。
だが、夏の緑の匂いがする。
いちいち感動する。
昨日、寄席へ行き兄弟子である昇也兄さんにラーメンをご馳走になった。
うまい。
うまい!
うまい!!
うまい!!!
うまい!!!!
匂いが戻ってきた世界はなんて素晴らしいのだ!
君とはもう二度と離れ離れになりたくないよ。
もう出ていくなんて言わないでくれよ。
ずっと一緒にいような。匂い。