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薔薇門

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有名人の死

有名人の死

死とはつまり”身近な人の死”のことだ。養老孟司の言葉である。

「あそこの奥さんが亡くなったそうだ」「隣の爺さんが息を引き取った」と聞いても、その一家以外にとってそれはただの噂話である。
友人の友人が亡くなったと聞いても、その現実的な意味はその友人にしか到底分からないのである。

ニュースで見る著名人の死はニュースでしかない。
その人の公演やイベントに足繁く通ったという親しい間柄ならまだしも、名前

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文字地獄

文字地獄

人は果たして文章で思考するのか、
それとも専ら感覚なのか。
私は、脳みその中ではその両方が、
入浴剤の色付いた湯船のように、
上手に混ざっているものだと確信している。

考え事をしているときの自分の頭を観察してみるといい。なんともふわふわで、つかみどころがない。その考えをいざ文章に書き出すためには、人にうまく喋るには、また改めて同じ思考を順に辿る必要がある。

一方考え事とは別に、文章を考える頭と

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ファッション

ファッション

ファッションとはプライドである。これが現時点での私の理解である。自己表現、安くいえば”服に着られず服を着こなす”事である。

繰り返すようだが(前記事)、私はこのような人間が嫌いであった。その尊大な布に意味はあるのかと罵り、気取ったキザ野郎と片付けていた。それが変わったのは、単によくショッピングに行くようになったからかもしれない。(この記事の出だしはそもそも日記的なものである。これらの文章もショッ

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日記を詩に換える

日記を詩に換える

私の最近心得た事のひとつに”文字は強いんだよ”がある。
このなんとも軟い思いつき程度に漠然と思っていたことを、坂口安吾がずばり書いていた。上がその引用である。下は、私のロマンチックな脅しである。

文字に襲われたことがあります、という記事を書いた時よりかは、私のこの思いつきも随分まとまった考えに落ち着いていたが、坂口安吾はこれをはっきりと言っていた。「自分の作品のあとでのみ、漸く自分の生活が固定す

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スピードワゴンはクールに去るぜ

スピードワゴンはクールに去るぜ

モヤさまがゴールデンでやっていた頃、細野晴臣の登場する回があった。街を彷徨うさまぁ〜ずがなんとなく立ち寄った定食屋に細野がおり、偶然コラボする形であった。

それから一緒に飯を食い、細野が古いピアノで少し演奏していた。このように記憶しているが、その放送で一番印象に残っているのは、その別れ際の、細野の後ろ姿である。
細野は別れの挨拶を一言残すと、そのままそそくさと路地に消えてしまった。振り返らず、足

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におい

におい

嗅覚は厄介である。鼻の穴はそのまま脳みそに繋がっているから、においは直接我々のアタマに効くのだろう。においはとりわけ記憶に繋がっている。

においと記憶

たとえば梅の花の香りを嗅げば、すぐさま春が思い起こされる。幾度となく繰り返してきたあの春、数々の甘い春苦い春の、ほのかな記憶が優しく蘇ってくる。季節にはその季節のにおいが強くある。
電車の中で、あるいは路端、どこからともなくいいにおいがする。そ

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