#SF
「ヴィンダウス・エンジン」(十三不塔)感想
止まっているもの全て見えなくなるという「ヴィンダウス症」。唯一の寛解者であった主人公キム・テフンは、成都の都市管理AIに組み込まれ、「ヴィンダウス・エンジン」の歯車となる——。中国を舞台に描かれる、清と濁の共存する近未来都市は、どこかエロティックな印象をもたらした。個人が超常的な力を得ることへの憧憬を刺激し、上質なエンタテインメントを提供する。
そんな本作に見受けられる構造として、ある種の対比、
第一回かぐやSFコンテスト最終候補作感想
候補作品は以下のサイトで公開されている。
①「Eat Me」
現実に居場所を失って、図書館に魂を、社会に肉体を捧げる、主人公。成長する学校図書館に就職する者たちは、例外なく「マザー」の内部に吸収されて、今度は吸収する側に回るだろう。繰り返される永遠。図書館という名の永久機関。強制と支配の社会(物質世界)から、逃れるための図書館(精神世界)の姿が垣間見える一方で、社会に居場所をなくした人間は、社
「なめらかな世界と、その敵」感想————「時代」と「共存」
2020年という大きな区切り、一つの時代の転換点が、目の前にある。本作には、まさにその「転換」と、「それ以前」を象徴するエッセンスが見られる。そしてしつこいくらいに追求されているのが、対立するものの「共存」。興味深いのは、作者は作中、あらゆる「転換」あるいは「幕開け」において、そこに少なからず希望を見出していることだ。各短編は全く別個に書かれたモノであり、こうした視点で読むことに疑いを持つことは避
もっとみる「パラドックス・メン」感想
アメリカ帝国と盗賊の対立から、宇宙へ飛び出し、時間をも超える壮大さ。決闘と奴隷制の復活、月や太陽にまで足を運ぶ高度な科学と、過去と未来の混ざり合った世界観は巧妙で、魅力的。
用語やプロットが少々難解、複雑で、一読した後熟考せなばならなかったため、ラストのカタルシスは少なかったのが残念だった。これは純粋に、私の力不足だろう。
これから挑戦する読者には、焦らず彼らの会話を丁寧に読み解いていくことを