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「逃走」するポストモダン
第一章 「逃走」を肯定する
近年、漫画やアニメ、小説といったコンテンツ、そしてある種の社会的情勢において、「逃げる」ということが非常に大きな主題となっていることは疑いない。その対象は、時に学校であり、会社であり、そして現実そのものであったりするだろう。
職場からの「逃走」に目を向けてみる。2010年代に始まったとされる退職代行サービスは、メディアに取り上げられるほど、広く知られることとなっ
『メタバース進化論』感想
メタバースは、近年にわかに注目を集めるフロンティアの名称である。本書は、その原住民自身による入門書。自らの体験と統計を基に記されるメタバースの現状や、経済や哲学の観点から描かれる展望に、好奇心をくすぐられる。
わたしはふと、希望に満ちたその筆致から、小学生の頃に読んだ『あたらしい憲法のはなし』を連想した。戦後日本で、平和や民主の素晴らしさをうたった官給本だ。『メタバース進化論』も、新しい時代の
「ヴィンダウス・エンジン」(十三不塔)感想
止まっているもの全て見えなくなるという「ヴィンダウス症」。唯一の寛解者であった主人公キム・テフンは、成都の都市管理AIに組み込まれ、「ヴィンダウス・エンジン」の歯車となる——。中国を舞台に描かれる、清と濁の共存する近未来都市は、どこかエロティックな印象をもたらした。個人が超常的な力を得ることへの憧憬を刺激し、上質なエンタテインメントを提供する。
そんな本作に見受けられる構造として、ある種の対比、
ブンゲイファイトクラブ批評 グループC
★点数★
「おつきみ」 3点
「神様」 5点 →勝者
「空華の日」 2点
「叫び声」 4点
「聡子の帰国」2点
★総評★
六枚という短さで、人間の感情を表現するというのはなかなかに難しいことだと思う。作中に描く場面を大きく広げ、個々の人間が薄まっているような印象を受けた。私は物語を大きく分けるものの一つとして、「人間」と「それ以外」を考える(単純な二元論にはならないが、便宜上)。読後感
ブンゲイファイトクラブ一回戦Bグループ感想
・「今すぐ食べられたい」中原佳
食べられたい牛と食べたくない人間の倒錯した悲劇。世界に平和をもたらすだろうその美味と、(観光客がおらず沐浴する人もなくただ死体を焼いている)戦争に近い状態だろう人間界とが、対比される。誰も牛に手を出さず、ガンジスに流してしまうという結末からは、ある種のメッセージを読み取ることができるだろう。寓話だろうか。
・「液体金属の背景 Chapter1」六〇五
組織に腐
ブンゲイファイトクラブ一回戦Aグループ感想
・「青紙」竹花一乃
死へ赴くことを強要される「赤紙」とは対照的な、自ら生を選択する「青紙」の物語。非常に風刺的であると同時に、「自由」への批判が読み取れる。選択は幸福をもたらさず、そもそもハリボテに過ぎなかった。
・「浅田と下田」阿部2
男湯に入る女生徒浅田、家族の元から逃走する浅田の父親。「規範からの脱出」が描かれ、しかし彼らは、帰ることを強制される。脱出することを望まず、母親が嫌な顔をし