虐待か?虐待ではないか?|虐待ではないのに虐待として治療するメリットは?
虐待については、いろいろな誤解やら憶測やらが飛び交っています。それを整理するために1本記事を書きました。
まずは虐待の定義をはっきりさせておきましょう▼。この記事にリンクされている最初の4つの記事を読むと、虐待についてよく分かります。キーは、目に見える虐待と目に見えない虐待があるということ。心理的虐待は分かりにくいですが、虐待することを楽しみながら心理的に追い詰めていくような場合です。
虐待されてきた人々がゼロから生きるために知っておくべき10ステップ【まとめ】
※今回の記事はラジオでも視聴できます。テキストを見ながらどうぞ▼
※この記事は、Twitterの質問箱に来た質問を深掘りして回答したものです。
今回の記事は【専門家向け】になります。何が虐待かというのは、専門家でさえ見逃したり、読みすぎたりするところです。親が愛着障害や愛着不全の場合を想定して考えてみます。これは、どちらも虐待ではありません。
虐待でない場合をしっかり理解すると、どういう場合を「虐待」と呼びうるのか、少しは理解できるかもしれません。
■虐待ではない場合その1(親が愛着障害)
周りからみたら、子どもの気持ちを理解していないということが事実だとしても、その背景には様々な心理的な事象が働いています。
子どもが怖くて、対応が薄くなってしまう
子どもに何かしてあげたいけれど、近づけない
子どもと接していると、普段は隠れている知らない自分(気持ち)が立ち上がってきて、虐待しそうで(自分が)怖い
もし、親がこんな状態であれば、子どもに寄り添いたくても寄り添えなくなります。なぜ子どもを怖がってしまうのか?それは、私の記事を継続して読んでいただいている方には理解していただけると思いますが、「親密」が怖いからです。
子どもが「ママ~」とベタベタとしてくるのが怖いから避けようとします。
何も暴力を振るうから怖いのではありません。むしろ暴力のほうが良かったりします。なぜならそれは、あからさまな親密表現ではないからです。(つまり、暴力は怒りですが、子どもの場合、その背景に親への親しみがあるのです。そういう暴力は親しみにつながります。親は、その親しみが怖いのです。)
こういうケースは、親が被虐者である場合が少なくありません。すると子どもは、被虐者二世(普通の子ども)になります。被虐者二世とは、その名の通り、被虐の親を持った子ということです。被虐者二世とは、被虐者ではありません。
子どもは親の生き方をコピーしますので、親の被虐された雰囲気をそっくりコピーし、子どもも被虐っぽく振る舞ったりします。そばで見ていると、まるで虐待が連鎖しているように見えますが、そうではありません。
ちゃんと親との愛着の絆はあるのです。そこを見落とさないようにすることが心理の専門家に課せられる課題になります。
このようなケースとして、藤圭子と宇多田ヒカルの関係を参考にしてください▼
■虐待ではない場合その2(親が愛着不全)
親の心理発達が、思春期あたりで止まっている場合は、まだ大人になっていませんので、子どもに寄り添うことが(途中から)できなくなります。この「途中から」というところがミソです。
例えば親の精神年齢が15歳くらいだったとします。すると子どもが小学生のうちは寄り添うことができますが、思春期に入っていると、だんだんと寄り添えなくなってきて、関係性が悪化します。なぜなら、自分の精神年齢に近づいてくるからです。これが「途中から」寄り添えなくなるケースです。
子どもが高校生にもなると、親の精神年齢の低さに辟易(へきえき)して、子どもの反抗はより強烈になります。あるいは完全無視が始まるかもしれません。
最悪の場合、子どもも自分の心理発達を止めて、小学生のままでいるかもしれません。こうなると、子どもは親へ従順ないい子を演じることになります。親子関係は、表面上は良好に見えますが、心理発達的にみると最悪です。まだ子どもが激しい思春期を完徹しているほうが安心なくらいです。
この親子関係は、虐待ではないけれど、親子の(心理的)バトルは泥沼化し、親に対して「毒親!」という気持ちをぶつけます。当然、親はその気持ちを理解することはできません。
■愛着不全の人に「虐待」というラベル付けをする功罪
虐待!と断定してあげたほうがいい人もいるのでは?という質問をいただきました。これはとてもナイーブな質問なのですが、だいたいの方向性を示しておきます。詳しくは、スーパービジョンを受けてください。また、質問文に「高間先生の虐待の定義」とありますが、私の定義ではなく、一般的な定義であることもご理解ください。
質問者さんは、母子葛藤がある場合は基本的信頼感がある、というところは理解いただいています。素晴らしいです。基本的信頼感は愛着とほぼ同義ですので、母子葛藤がある場合は愛着があるということになりますね。ここは重要ですから外さないでおきましょう。
それが分かった上で、質問を少し修正させていただきます。
母子葛藤のあるうえで親から適切な養育を受けなかった→
不十分な養育によって母子葛藤が生じている、と読み替えるといいと思います。
これが愛着不全の実態です。機能不全家族ですね。愛着があるわけですから「虐待」認定はしません。でもこれを虐待認定している専門家も多いです。岡田尊司先生の、愛着障害スペクトラムを標ぼうする人々は、この認定家に入るでしょう。
この愛着不全の治療は、一般的にいうとACへの治療と同じになるでしょう。斉藤学先生の独壇場ですね。斉藤先生の多くの書籍を読み解くと、愛着不全へのアプローチが見えてきます。愛着不全は成人学童期でしたから、高橋和巳先生と斉藤学先生の治療を学べば、愛着の病の全貌(ぜんぼう)が見えてくるでしょう。
愛着ありきの母子葛藤を虐待とする→
十分な愛着がある母子葛藤は、親子感情のねじれとして扱います。虐待はもとより愛着不全としても扱いません。
臨床像としては異邦人(被虐者)二世がここに該当するかもしれません。治療は、親と思春期の子どもへの対応に準じながら進みます。子どもが30代、40代になっても、親子関係のねじれとして治療していきます。ここはスクールカウンセラーの対応が参考になるかもしれません。
こちらも、藤圭子と宇多田ヒカルの関係が参考になります▼
「虐待」という言葉は、最後の決め球のような感じですので、そう易々(やすやす)とは使えません。実際に、虐待である場合にのみ使います。
虐待でないのに虐待と使っていると、そのうち治療にほころびが生じてきます。ここはかなり治療論に踏み込みますので、ここでは返答しきれませんので、スーパービジョンをお受けください。以下に少しだけ誤診するメリットについて書いておきましょう。
◇あえて誤診するメリットについて
誤診のメリット?を考える前に、愛着の治療がどのように進むのかおさらいしておきます。愛着に関しての治療は、おおまかに次の3タイプで進みます。
①虐待された人は親密が怖いので、あまりベタベタせずにドライに接します。
②一方、愛着不全な人は親密が好きです。母性・父性を求めます。この関係性を調整していくのはベテランの心理士マインドが必要です。愛着不全の臨床ができるようになると超ベテランの域に入ったといえます。
③愛着に問題のない人の母子葛藤については、助言せず傾聴に徹します。
そして、この質問者さん(たぶん心理職の方でしょう)の最も知りたいところは、
愛着不全の人にも「虐待」というラベル付けをしたほうが、受容されている気分になるのでは?という提案ですよね。
これは上の①、②の治療方針を見てもらえば分かりますが、水と油くらいの差のある治療になります。ですから「虐待」で治療をスタートしてしまうと、どこかで迷路に入ってしまう可能性があるでしょう。
しかしカウンセリングの初期のうちは、虐待というラベル付けに安心する人も、実際にいますね。それだけ、愛着障害という名前が魅力的ということもありますし、自分のこれまでの辛い人生を考えると「愛着障害」(虐待)しかないだろうという気持ちもよく分かります。
本人がそのように虐待を確信している場合は、あえて訂正することなく進めばいいのです。それに反論する必要はありません。治療者側が、「虐待ではないかもね」と意識しながら(明言せず)カウンセリングを進めていけば、どこかで道は元へ戻ります。そして愛着障害でなかったために、より苦しい道を歩いた自分の人生を愛おしく思い返すときが、必ずやってきます。
■まとめ
虐待の定義をまず知りましょう。リンクを張っておきます。虐待されてきた人々がゼロから生きるために知っておくべき10ステップ【まとめ】
親が愛着障害の場合は、子への対応は虐待ではない。
親が愛着不全の場合も、子への対応は虐待ではない。
愛着不全の人に「虐待」とラベル付けするのはメリットよりデメリットのほうが大きい。しかしあえて誤診しつつ進むこともある。
□常識のなさ|ラジオおやすみカフェ
今日のラジオおやすみカフェのテーマは…常識のない人について。詳細はラジオをお聴きください。
脳機能に問題のある人:理解できない
愛着障害の人:教えてもらってない→つぎはぎの常識(かりそめの成人期)
愛着不全の人:(意外と)常識在り(融通が利かない)
■他の助けを求めるのもいいでしょう
あなたが愛着の問題を抱えている場合は、自分の物語を十分に話せる臨床心理士などの専門家に相談するとよいでしょう。もし、いまのカウンセラーがいまいちと感じるのなら、別のカウンセラーを探しましょう。あなたにとって良いカウンセラーはあなたの一生の財産になります。あなたのカウンセリングがうまくいきますように。
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