江ノ島の桜、たくあん干し
田舎者にとって東京の地名ほど非現実的なものはないし、真綿色したシクラメンほど清しいものもない。ここでいう東京とは、「広義の」東京である。テレビでよく見聞きする場所が現実に存在していて、そこに人々の営みがあるなんて夢にも思わない。吉祥寺はゆずの歌で初めて耳にしたし、江ノ島はアジカンの歌でしか馴染みがなかった。御茶ノ水は地名としてではなく、鼻の大きな博士の名前としての知識しかなかった。新宿や渋谷なんて、ゴッサム・シティと同じである。高校を出て上京したての頃、これらの地名が実在す