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カニの缶詰、貝柱

 カニを食べるとき、人は無言になる。あの無言の作業は、人類が生み出す静寂のなかで最も美しく、そして儚いものの一つであると言われている。私によって。

 ポケモンことポケットモンスターは、日本が誇るご長寿コンテンツである。世代的に私はポケモンと共に生きてきたと言っては過言かもしれないが、しかし、子供時代から馴染みのあるものであることは間違いない。

 ポケモンから派生した製品は、パチモンを含めたくさんある。そのなかにポケモンパンというのがあった(今もある)。ポケモンパンにはポケモンのシールがもれなくついており、それを水筒に貼って学校に持ってくるというのが、一つの新たな文化として我が小学校に定着していた。珍しいポケモンシールはしょうもないもの二枚と交換できる、といったようなレートも決まっていた。それだけ人口に膾炙していたともいえる。

 ポケモンといえば、かの有名な「ポリゴンショック」というのがあった。アニメ上の演出で激しい光の点滅があり、視聴者(その多くが子供)の具合が悪くなったのだ。これ以降テレビ番組では、「テレビから離れてください」だとか「演出上点滅があります」だとか、冒頭に注意書きが入るようになったのだから、ある意味で日本のテレビ史を変えたともいえる。ちなみに「ポリゴンショック」と言っているが、ポリゴン自体が悪いわけではない。これはいわばスペイン風邪みたいなもので、なんとも不運な珍獣だ。

 『ポケモン言えるかな?』という歌も当時の子供は皆暗唱していた。そのとき151匹だったポケモンも、シリーズごとに数は増えている。そのなかに、カニをモチーフにしたポケモンもある。あっちの世界の人々は、そのカニポケモンを無言で食べるのだろうか。虫をモチーフにしたポケモンもいくらかあるが、殺虫剤はあるのだろうか(ちなみに「むしよけスプレー」というアイテムはある)。はたまた、格闘家のようなもの某超能力者を模したようなものなど、人間によく似たポケモンもいる(思わず「いる」と言ってしまった)。それらをモンスターボールにしまうとき、良心の呵責みたいなものはないのだろうか。この辺のことは、あまり深く考えないほうがいいかもしれない。

 カニは美味いが、なかなか手軽に食べるというものでもない。そのかわりカニカマボコ、通称カニカマはいろんなところで手に入る。カニカマはカニではないものの、それはそれで美味である。あんまり美味なので、そろそろ嫉妬心に燃えたカニが、自らカニカマの味に進化しはじめるかもしれない。そのくらいの気概を、この麗しき甲殻類には持っていてほしいものだ。

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