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ウルトラマンは一般人

 「手一本、目ん玉三つ、足六本。これなんだ?」

 ある日、マイ・ファーザーにこんな謎々を出された。答えは「馬に乗った丹下左前」であった。丹下左前と聞いても若い人はピンとこないかもしれない。若くない人もピンと来ないかもしれない。丹下左前とは隻眼隻腕の剣士で、彼が馬に乗ると手が一本、目が三つ、足が六本という勘定になるというわけだ。息子にこんな謎々を出す父親もどうかと思うが、さて、このおニューでナウい謎々を手に入れた五歳児は、早速幼稚園の先生に出してみた。今考えると当然だが、先生は答えられなかった。当時、絶対的な存在であった先生に答えられないことがあるということは、幼稚園生の私にとってコペルニクス的衝撃であった。

 もう一つ、こんな出来事があった。幼稚園児の私は恐竜にハマっていた。何を隠そう私は、小学校入学の際、サンリオの「ウィアーダイナソアーズ!」の下敷きを買ってもらったほどの筋金入りの恐竜愛好家であった(今でもそのきらいはある)。当時、学研の図鑑に載っていた恐竜の名称と形態はほとんど誦じていた。その中にパキケファロサウルスというのがいた。古代の大型生物にあかるくない方はご存じないかもしれないが、これは白亜紀に大地を闊歩した草食動物で、その特徴はなんと言っても分厚い頭蓋骨である。その石頭をぶつけ合って喧嘩をしていたとか、敵を撃退していたとか言われている。なかなかユニークな恐竜である。学名はそのまま Pachycephalosaurus だが、「分厚い頭のトカゲ」の意だそうだ。さてさて、例によって私はこの恐竜について先生に訊いてみた。またも先生は答えられなかった。妙な質問ばかりされる不幸な先生である。この二つの事件によって、先生は超人であるという幻想は、夏の終わりの砂浜の城のように、早々に、そして決定的に崩れ去ったのだ。

 先生は超人ではなかった。ウルトラマンだって超人ではない。帰れば家庭があるし、子供の相手もしなくてはいけない。そんなウルトラマンの知られざる人間(?)くさい姿を描いたのが、絵本「おとうさんはウルトラマン」シリーズである。

絵本はそれなりに親しんできたという自負があるが、この絵本はその中でも印象に残っているものの一つである。先生だってウルトラマンだって自分と変わらないんだと思うと、なんだか優しい気持ちになれる。何かの歌ではないけど、誰でも一度は子供だったけど、みんな忘れているのだ。

 ちなみにウルトラマンよりゼットンが好きだった。理由は黒いから(似たような話はこちらでしている)。ただダダは嫌いだった。

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