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"歴史" 系 note まとめ

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#読書感想文

『サピエンス全史(下)』(ユヴァル・ノア・ハラリ著)

【内容】 ホモ・サピエンスの過去、現在、未来を俯瞰する世界的なベストセラーの下巻。 ※ネタバレ(?)します。 【感想】 人類と何か? 神とは何なのか? 死は克服されるのか? チラリと頭をよぎることはあっても、普段は大きな話過ぎて、基本的にスルーしがちな話題を、凄く頭の良い学者が今わかっている最新の研究を絡めて語ったらどうなるのか? そしたら、やたらに面白く、今まで見えていなかった世界のありようが見えてきた… そんな本になっていました。 下巻は、上巻ほどのインパクトは

塩野七生「ロードス島攻防記」読書感想文

ロードス島ってどこだろう? これはファンタジー小説か? ライトノベルでよくある、魔法と異世界が合わさっていて、ヒロインやら王子やらが登場する戦記ファンタジーだと思っていた。 すると、塩野七生だ。 これほど官本の棚に目を走らせているのに、そこに気がつくのに2年かかっている。 この本は、戦記ファンタジーでもなく、魔法だって異世界だって出てこない正統派の歴史小説だったんだ。 はじめての塩野七生の、最初の1冊になる。 本当は「ローマ人の物語」にいきたいが、大作すぎて気後れして

読書感想 『世界は五反田から始まった』  「主観と客観と歴史」

 タイトルを知って、なんとなく敬遠をしてしまっていた。  それは、昔、こうした大きな言葉を掲げてから、内容は軽くする、というような手法が多くとられていたからで、それで、「面白さ」を生じさせるような文章を読めたのは、もしかしたら、バブルという好景気の頃までだったのかもしれない。  そんなような個人的で勝手な感想が、かなり愚かな思い込みだったことは、この作品を読み始めて、すぐに気がついた。適度な柔らかさもあったのだけど、自分の主観をつづることで、それは、誰もが思い当たるような

歴史の言葉No.24 リン・ハント『人権を創造する』 「彼らはわたしたちなのだ」

18世紀に書簡体小説が欧米で流行した。ルソーの『ジュリ(あるいは新エロイーズ)』やサミュエル・リチャードソンの『パミラ』など、作者の視点のみによって書かれた小説ではなく、小説の登場人物の手紙をとおして、あたかも登場人物みずからが語っているかのように感じられる仕掛けをもった小説だ。 おなじ18世紀後半には、アメリカとフランスで革命が起きた。革命では、人間は平等であるということがうたわれた。それ以前にはなかった感性があらわれた。 なぜ革命の直前に、書簡体小説が流行したのか?

読書日記『天皇の音楽史 古代・中世の帝王学』(豊永聡美、吉川弘文館)

古代から室町時代の後花園天皇まで、歴代天皇の音楽との関わりをまとめた本。面白かった! 帝王学の一環として音楽の嗜みが求められていた、前近代の天皇。 琴、琵琶、笙、箏、笛……。 天皇はどんな楽器を主に演奏するのか、時代によって変わっていったそう。 嫡流のみ演奏する楽器、大覚寺統と持明院統ではそれぞれ別の楽器、室町幕府との関わりから足利将軍も演奏していた笙を選択など、当時の家系意識や政治状況が反映されています。 ううむ、単に天皇個人の好みで楽器を選択したのではないんだね。 とこ

読書感想文の歴史と問題点:本を読んで成長した物語を書く作文【教育学】

 夏休みの宿題の定番である読書感想文。意味がない・かえって読書が嫌いになるなど様々な批判を受けていますが、こうした批判は半世紀以上前からあります。  批判を受けながら、なぜ続いているのか。歴史を見ると、読書感想文は感想というより自分について書く作文であるといった特徴や、問題点が見えてきます。 1.1955年全国コンクールから広まった読書感想文  読書感想文は、1955年に現在も続く読書感想文全国コンクールが始まったのを機に広まりました。教員有志による団体である全国学校図書

歴史の扉Vol.11 ポテトチップスの世界史

ライターの稲田豊史さんによる『ポテトチップスと日本人—人生に寄り添う国民食の誕生』(朝日新聞出版、2023年)を読んだ。ポテトチップス好きの私としては、カバーの装丁がポテトチップスのようであるのも良い。思わず手にとってしまうではないか。 世界史的な観点から、いくつか気になった点を紹介がてら整理してみよう。 ポテトチップスと有色人種 ポテトチップスの歴史はそんなに古くないようだ。一般には「アフリカ系アメリカ人の男性を父に、ネイティブアメリカンであるモホーク族の女性を母に持つ

『名画の中で働く人々―「仕事」で学ぶ西洋史』by 中野京子

中野京子さんの本を読むのは、もう25冊目だけど、ほとんど外れなし。 いい加減ネタ切れなんじゃないのか、「仕事」を切り口に名画についてなんか書けるんだろうか?なんて思ったけど、さすが引き出しが豊富だ。 「仕事」といってもバラエティに富んでいる。 闘牛士、侍女、香具師(やし)、宮廷音楽家、羊飼い、女性科学者、道化、警官、思想家、ファッション・デザイナー、大工、看護婦、政治家、修道女、船頭、異端審問官、傭兵、女優、子供も働く、天使も働く。 名画とともに、いろいろと面白い、ために

ドラクロワが描くファウスト 国立西洋美術館にて

今日は国立西洋美術館の常設展のファウスト、「版画で「観る」演劇」です。 ファウストはゲーテの作品で、ドイツのライプツィヒの商店街にはファウストとメフィストフェレスの像があります(ショーウィンドとの対比がユニーク)。 ゲーテの「ファウスト」は演劇だけでなくオペラにもなっていますが、今回の版画の展覧会はファウストの第一部についてドラクロワが版画にした作品です。 私が読んだのは「高橋義孝訳 新潮文庫」でしたが、「とまれ、お前はあまりにも美しい」というフレーズが知られています。 第

【読書】『興亡の世界史 大英帝国という経験』でドラマ「OUTLANDER」のおもしろさ倍増!

2022年4月にFacebookに書いたもの。Netflixのドラマ「OUTLANDER」シーズン6が1月26日から配信されるので、加筆してみました。 恩師・井野瀬久美恵先生(甲南大学教授)の『興亡の世界史 大英帝国という経験』を読む。今頃? となるんだけれども、いいの何時だって。本との出会いは突然・偶然・必然に。 軸は「大英帝国」なんです これ…ドラマ「アウトランダー」沼にはまった人、必読ですよ!!! ネタバレになるかもしれないけど、歴史大河ロマンだから、まあネタはす

中国料理が喚起したアジア各国のナショナリズムーミニ読書感想「中国料理の世界史」(岩間一弘さん)

研究者岩間一弘さんの「中国料理の世界史」(慶應義塾大学出版会)が興味深かった。中国料理を立脚点とし、それがアジアや欧米各国にどう波及し、その国の歴史にどう関わったかを詳述する。いわゆる「テーマ史」かと思いきや、各国のナショナリズムとの絡み合いを深く追求する点でユニークだった。 中国料理は、アジア各国のナショナリズムを喚起するツールとして貢献した。このことを学べたのが大きい。 たとえば、シンガポールやマレーシアは第二次世界大戦後、独立したり本格的に国としての歩みを始めた。国

歴史のことばNo.14 「歴史の産物が一夜にして無に帰すことはなく、(…)他に選択の余地がない与件となる。」 松井透『世界市場の形成』

本邦におけるグローバル・ヒストリー研究の先駆け 「世界史」を「グローバル・ヒストリー」と呼びかえる動きは、まだ一般に普及しているとはいえないだろう。    さしあたって「グローバル・ヒストリー」は、世界史を見る上での新しいアプローチであるとみればいい。  たとえば、歴史学者の水島司氏は、つぎのような特徴を列挙している(『グローバル・ヒストリー入門』山川出版社、2010年、2-4頁)。 ・「あつかう時間の長さ」 ・「対象となるテーマの幅広さ、空間の広さ」 ・「従来の歴史叙

ネストリウス派→アッバース朝(バグダード)→ヨーロッパ(トレド)という流れ~『イスラムがヨーロッパ世界を創造した 歴史に探る「共存の道」』(宮田律著、光文社新書)を読んで

 ネストリウス派(景教)について調べているうちに、イスラムとかアラブ世界についての認識不足を改めて実感するようになり、もう少しイスラムの世界について知りたいと思っていたところ、光文社のnoteで『イスラムがヨーロッパ世界を創造した 歴史に探る「共存の道」』が新書として出版されるという記事を読んだ。目次を見たら、面白そうだったので、早速読んでみた。(目次はここで見られます↓) 「なるほど~」と思うことはいくつもあったが、ここでは、これまで、このnoteで触れてきたネストリウス

対話とはこうすることなんだーミニ読書感想「世界史の考え方」(小川幸司さん・成田龍一さん編)

今春から高校で始まった新科目「歴史総合」への向き合い方をまとめた「世界史の考え方」(岩波新書)が面白かった。難しいけど面白い。歴史研究、歴史授業の専門家である小川幸司さんと成田龍一さんの編著。お二人が各回ゲストを招き語らう対話形式で、「対話というのはこうやってやるんだ」というのを実践して見せてくれる。読む対話だった。 歴史総合は、近代から現代にかけての世界史と日本史を一体的に学ぶ新科目だ。この二つの歴史を架橋することは、言うは易し行うは難し。本書は、そもそも世界史と日本史を