マガジンのカバー画像

"歴史" 系 note まとめ

1,181
運営しているクリエイター

#書評

大英帝国の覇権を可能にした電信の歴史を語る『ヴィクトリア朝時代のインターネット』(1998)の紹介

科学技術ジャーナリストのトム・スタンデージ(Tom Standage)は、19世紀にモールス符合を用いて電信システムが世界中に広まり、遠隔地と電気信号で通信する時代を描いた『ヴィクトリア朝時代のインターネット』(1998)の著者です。この著作は、研究者向けの歴史学的な作品ではなく、一般の読者を対象としたものですが、その解釈は19世紀と20世紀の戦争の歴史を理解する上で興味深い示唆を提供しています。 Standage, T. (1998). The Victorian Int

索引 ~の歴史|馬場紀衣の読書の森 vol.30

こういう本を、ずっと待っていた気がする。 13世紀の写本時代から今日の電子書籍まで連なる、長い、長い情報処理の歴史。本の索引に欠かせないページ番号の登場、アルファベットの配列はどのように考案されたか。時代と共に増えつづける知識と人びとはどのように付き合ってきたのか。分厚い本なのに、どんどんページをめくる手が進み、あっという間に読み終えてしまった。 「索引」を書物の中の語句や事項を捜しだすための手引にすぎないと、あるいは本書をそれについて書かれた専門書だと思っているのなら、

歴史の扉Vol.11 ポテトチップスの世界史

ライターの稲田豊史さんによる『ポテトチップスと日本人—人生に寄り添う国民食の誕生』(朝日新聞出版、2023年)を読んだ。ポテトチップス好きの私としては、カバーの装丁がポテトチップスのようであるのも良い。思わず手にとってしまうではないか。 世界史的な観点から、いくつか気になった点を紹介がてら整理してみよう。 ポテトチップスと有色人種 ポテトチップスの歴史はそんなに古くないようだ。一般には「アフリカ系アメリカ人の男性を父に、ネイティブアメリカンであるモホーク族の女性を母に持つ

歴史のことばNo.21 伊藤敏『歴史の本質をつかむ「世界史」の読み方』の読み方

各所で話題になっている伊藤敏先生の『歴史の本質をつかむ「世界史」の読み方』をご恵贈賜りました。 具体的なところに目がいってしまう質なので、特に読みでがあったのは、「より深い理解へ導く見方」とうたう第Ⅲ部である。 さらに読み進めていくと、なんと「モヒの戦い」が! モヒの戦いなんて、高校世界史の教科書には載っていない。 じゃあモヒの戦いなんて必要ないんじゃないのか? 単にマニアックなのではないのか? さらにその後には、イギリスでもフランスでもなく、なんとスイス(盟約者団)

歴史のことばNo.20 西平等『グローバル・ヘルス法―理念と歴史』名古屋大学出版会、2022年

この3年、国際保健協力については色々と読みあさる機会があったが、その集大成というか、総整理にふさわしい書籍だった。 おそらく初めに読むものとしては、偶然COVID-19の初期に刊行された下記がよい。 アジア(特に日本と中国)の果たした役割については下記。 むしろ、マラリア対策については、マラリア対策中心に国際保健協力の手法をたどった、下記所収の脇村氏論文を先に読んでおいたほうが、理解がすすみそうだ。

小池陽慈著『現代評論キーワード講義』&『評論文読書案内』の使い方 【歴史総合編】

結論。小池先生の著作は、高校の地歴公民科の授業で使いやすい! ということで、わたしなりの紹介として、発売されたばかりの『現代評論キーワード講義』(三省堂、2023)に加え、『世界のいまを知り未来をつくる評論文読書案内』(晶文社、2022)を合わせて、使い所を整理してみました。ジグソー学習などのワークシート等で引用したりする際にも、便利であるとおもいます。 読むキーワード辞典というジャンルでいえば、今村仁司の『現代思想を読む辞典』がパッと浮かびます。受験生向けという点では、

つながる沖縄近現代史 書評

※これは、2022年1月15日の沖縄タイムス 読書17面に掲載された書評に、加筆したものです。 ーーーーーーーーーー  私は日本史がさっぱり分からなかった人間である。幕府と朝廷の違いもわからず、ひたすら年号を暗記するだけで逃げてきた。キーワードは覚えていたけれど、それが実際どういうことで、何が起こっていたのか、1ミリも理解なんてしていなかった。それが、2017年には大河ドラマにハマりまくり、ゆかりの地をめぐり一週間の旅に出るまでになった。  私にとってのコペルニクス的展

歴史のことば No.19 「今日の気候変動は別の意味で歴史の産物でもあるのだ。」

人新世という言葉が、だいぶ知られるようになった。 自然科学の用語なのだから定義がしっかりしているのかといえば、そういうわけではない。学術的には、かなり込み入った論争を含むやっかいな言葉でもある。 だが、「人間が地球におおきな影響を与える時代」という意味として、おおかた流通しているようだ。 すべての流行語がその道をたどるように、言葉の送り手と受け手のあいだで、必ずしも意味の一致をみないものの、それとなく流通している。そんな「言語ゲーム的状況」にあるのが、現状の「人新世」の使わ

【書評】立石博高『スペイン史10講』(岩波新書)

 大航海時代の主役となり、「太陽の沈まぬ帝国」を築いたスペイン。きわめて興味深い歴史を持っていますが、イギリスやフランスなどと比べると通史に詳しい人は少ないかもしれません。  本書は250ページほどのコンパクトな新書ですが、原始時代~21世紀までのスペインの通史を扱っています。駆け足のため人名・事件名の羅列になりがちな箇所もありますが、スペイン史の入門としては最適だと思います。 文明の十字路だったイベリア半島 スペイン史の展開には、地形的・地政学的特徴が深く関わっています

ロシア宇宙主義の研究者 福井祐生さんが読む『ロシアの博物学者たち』

工作舎の本って、どんな人に読まれているんだろう。 どんな役に立っているんだろう。 「わたしの仕事と工作舎の本」第1回は ロシア宗教思想の若手研究者、福井祐生さん。 研究対象であるフョードロフとロシア宇宙主義について、 そして西欧とは異なる視座をもつロシア思想を研究する上で 参考文献の一つとなったダニエル・P・トーデス著 『ロシアの博物学者たち』について書いていただきました。 『カラマーゾフの兄弟』との出会いからロシア宇宙主義へ  はじめまして、福井祐生(ふくい・ゆうき)と

シリーズ歴史のことばVol.0 はじめに

みなさんはすでにご存知だろう。 大学受験予備校で現代文を指導されている小池陽慈先生が、古今の作品を紹介するマガジンを、note上でいくつも運営されている。 読んだことのある作品であっても、こんなことばが隠されていたんだ!という発見がある。 作品点数はすでに100を超え、青空文庫のリンクが貼ってあることもうれしい。 「ことば」がどこにあるのか、一発で検索できてしまうのも味気ないが、ついつい検索しては、こんなところに!と、宝探しの感覚である。 私は優れた読書家ではないが、職業

書籍紹介 中西嘉宏「ロヒンギャ危機ー『民族浄化』の真相」

↑おすすめ本の紹介です。 昨年、第16回樫山純三賞(一般書部門)・第33回アジア・太平洋賞特別賞・第43回サントリー学芸賞(政治・経済部門)を受賞した中西嘉宏准教授の「ロヒンギャ危機ー『民族浄化』の真相」。東南アジア地域研究者の作品としては、珍しいメインストリームの学芸賞を複数受賞した新書だ(地域研究に従事している私が自分で言うとやや自虐的かな)。 これだけ高く評価されている作品なので、書評や著者のインタビューはいくつも出ているので、今回は、東南アジア史、特に地方の紛争を

胎中千鶴『あなたとともに知る台湾―近現代の歴史と社会―』(歴史総合パートナーズ⑥)清水書院(2019年)

「高等学校の新科目『歴史総合』に向けた新シリーズ!」ということなので高校生向けなんですが、大人の台湾入門書としてもバッチリの優れものです。台湾については、これまで習ってこなかった方が多いでしょうからね。 ところで「歴史総合」ってなに?とネット検索してみたら、こんなページに行きあたりました。 日本学術会議さん、ちゃんとお仕事されてます。(ホントだ) 「本書は、日本と台湾という『ふたり』の関係に力点を置きながら、台湾の近現代史を概観」したものです。台湾についてすべてを網羅し

「神聖ローマ帝国の死亡証明書」の創作者/ヨハンネス・ハラー『ドイツ史概観 ドイツ史の諸時期』

最後にして最大の宗教戦争・三十年戦争を終結させたウェストファリア条約。神聖ローマ帝国を有名無実化したとされるこの条約は「神聖ローマ帝国の死亡証明書(死亡診断書)」と言われている。その言葉の出もとこそ戦前に出されたこの本である(たぶん)。教科書で知られるこの言葉は、著者:ヨハンネス・ハラーのナショナリズムからくる、辛辣な歴史意識に基づいた慨嘆だった――(文・二重川統光) 1648年、ウェストファリア条約(ヴェストファーレン条約)が締結され、ドイツを中心に戦われた“最後にして最