小池陽慈著『現代評論キーワード講義』&『評論文読書案内』の使い方 【歴史総合編】
結論。
小池先生の著作は、高校の地歴公民科の授業で使いやすい!
ということで、わたしなりの紹介として、発売されたばかりの『現代評論キーワード講義』(三省堂、2023)に加え、『世界のいまを知り未来をつくる評論文読書案内』(晶文社、2022)を合わせて、使い所を整理してみました。ジグソー学習などのワークシート等で引用したりする際にも、便利であるとおもいます。
読むキーワード辞典というジャンルでいえば、今村仁司の『現代思想を読む辞典』がパッと浮かびます。受験生向けという点では、かつて西研『「考える」ための小論文』にもお世話になりました。
『キーワード講義』は、「ナショナリズム」や「資本主義」といったむずかしい言葉が、限られた紙幅のなかで鮮やかに講義されているだけでなく、小池先生が
一貫して課題意識としてもたれている「表象=代表」の問題、そして歴史的に世界を読み解き未来につなげる意識が底流にあることで、多くの語彙が星をつなぐように理解しやすくなっている。現代の中高生版レイモンド・ウィリアムズの『キーワード辞典』といってよいのかもしれない。
今回、使い所を整理した「歴史総合」は史料の解釈に重点を置く科目です。どうしても、個々の事象の背後にある、大きな社会の仕組みの変化をとらえ、自分自身の実存と結びつけるための、批評的な勘どころが必要になります。そんなとき、本書は威力を発揮するはずです。
ないものねだりにはなりますが、非欧米圏の叙述がもうすこし豊かであればよいなとも感じます。被害を受ける者=表象される者としての受け身の姿だけでなく、たとえば文化人類学者の小川さやかさんの提示するような、したたかに生きる第三世界、グローバル・サウスのあり方(グローバル・サウスは常に被害者というわけではなく、状況によっては加害者にもなりうる)に注目することも、世界の複雑さを理解する上では重要だと思うからです。
最後の項目にあらわれていたレジリエンスが、その糸口になるような気がします。
ステップとしては、『現代評論キーワード講義』(2023)→『”深読み”の技法』第2部(2021、笠間書房)→『世界のいまを知り未来をつくる評論文読書案内』(2022)といった感じでしょうか?
『キーワード講義』を入門の入門とするならば、『”深読み”の技法』は、実践の入門、『評論文読書案内』で総仕上げといったイメージを持っています。
『キーワード講義』には、いくつか私がnoteで紹介した書籍も紹介されており、差し出した贈与がつらっていくようで、嬉しかったです。
今回の『キーワード講義』から感じるのは、中等教育段階の子どもたちに対して、評論(教育)の果たすべき役割は何かという思いです。予備校と高校では立場は異なりますが、個別の専門性よりもむしろ”全体性” を意識し、組み立て、翻訳し、表現しなければならない、という点では、似ているところがあるのかもしれません。
さらに、『キーワード講義』の章立てが「前近代/近代/現代」となっているように、評論読解の場に、歴史性をはっきりともちこんだところに、本書の意義があります。つまりは、普遍的な仕組みとみられているものが、じつはそこそこ数百年の「近代」的な課題にすぎず、別の形のありかたを構想できるのではないか、ということです。
とくに私がすばらしいと感じたのは次の箇所です。
これから新しいものを作ろう、ではなく、すでにそこにある声を聞け。
内なるサバルタンに耳を傾けよ。
小池先生、画期的な「教材」を世に出していただき、ありがとうございました。
以下、箇条書きで「・1 ◯◯◯◯」と示したものは『現代評論キーワード講義』の項目を、「・【読書案内】1-1 ◯◯◯」と示したものは『評論文読書案内』の章-セクションを指します。
『評論文読書案内』第4章は内容に関連するものですから、ここでは採り上げませんが、『キーワード講義』で紹介されている高校生レベルの書籍以上のものが中心です。むしろ小論文や、大学入学後の学びに向けた準備として紹介すべき書籍のラインナップとなっています。
0. 歴史の扉
0-1.歴史と私たち
◆「自分は歴史なんて関係ない」って、本当?
70 構築主義/本質主義
0-2. 歴史の特質と資料
◆ 大昔に起きたことなんて、確かめようがないんじゃないの?
1. 近代化と私たち
1-1. 近代化への問い
◆「近代化する」って、何が、どうなること?
1-1-1. 労働と家族/1-1-2. 産業と人口/1-1-3. 交通と貿易/1-1-4. 移民/1-1-5. 権利意識と政治参加や国民の義務/1-1-6. 学校教育
21 個人主義
23 人権
25 公共圏と近代市民社会
26 一般意志
27 民主主義
28 国民国家
29 国民統合
30 ナショナリズム
31 国民国家の功罪
38 ロマン主義
88 規律訓練型権力
89 生権力/生政治
1-2. 結びつく世界と日本の開国
1-2-0.18世紀以前の世界:近代化への胎動
◆ 世界は、いつごろから結びつくようになったの?
1-2-1.18世紀の東アジア
◆ 18世紀の東アジアの人々は、どんな生活を送っていたの?
1-2-2.結び付くアジア諸地域
◆ 「江戸時代の日本は「鎖国」していたわけじゃない」って聞いたことがあるけど、それってどういうこと?
1-2-3.18世紀のヨーロッパとアジア
◆ ヨーロッパ諸国は、なぜアジアにやって来たの?
24 啓蒙思想
74 ダイバーシティ
【読書案内】3-1 近代国家の幕開け(主権国家、宗教改革など)
1-2-4. 産業革命のはじまり
◆ 産業革命って、なにがそんなにすごいの?
32 資本主義
33 搾取
34 疎外
44 マルクス主義
97 人新世
【評論文読書案内】2-3 資本主義
1-2-5.世界市場の形成
◆ どうしてヨーロッパ諸国は、世界中に植民地を広げることができたの?
37 世界システム論
1-2-6.東アジア国際関係の変化と日本の開国
◆ 「開国」によって、東アジアの国際関係はどう変わったの?
1-3. 国民国家と明治維新
1-3-1. 市民革命と近代社会
◆ 欧米諸国では、どのようにして近代社会がつくられていったの?
21 個人主義
23 人権
25 公共圏と近代市民社会
26 一般意志
27 民主主義
【読書案内】2-1 フランス革命と国民国家
【読書案内】2-2 一般意思とは何か
【読書案内】2-3 多数決について考える
1-3-2. 自由主義とナショナリズム
◆ 「憲法」をつくると、どうして国がまとまるの?
28 国民国家
29 国民統合
30 ナショナリズム
31 国民国家の功罪
38 ロマン主義
【評論文読書案内】2-2 ナショナリズム
1-3-3. アジアの諸国家とその変容
◆ 「西洋の衝撃」って、そんなに大きなものだったの?
1-3-4. 明治維新と国民国家の形成
◆ 日本はどうしてこんなに短期間で近代化に成功したの?
28 国民国家
29 国民統合
30 ナショナリズム
31 国民国家の功罪
38 ロマン主義
42 日本の近代化
88 規律訓練型権力
89 生権力/生政治
1-3-4-2. 「西洋の衝撃」と東アジアの国際関係
1-3-5. 立憲制の広まり
◆ 憲法を導入する国が、世界中に広まったのは、なぜ?
1-3-6. 帝国主義と植民地
◆ 帝国主義は、世界をどう変えたの?
1-3-7. 日清戦争と華夷秩序の解体
◆ 日本はどうして海外に植民地を求めるようになったの?
1-3-8. 帝国主義諸国の競合と国際関係
◆ どうして20世紀にかけて欧米諸国・日本の関係は悪化していったの?
1-3-9. 植民地支配と植民地の近代、人種主義(1)
◆ 植民地を持つことは、「悪いこと」だという人はいなかったの?
1-3-9-2. 植民地支配と植民地の近代、人種主義(2)
35 植民地主義
36 帝国の欺瞞
39 表象
40 ステレオタイプ
41 オリエンタリズム
42 エスノセントリズム
58 中心/周縁
71 レイシズム
82 ポストコロニル理論
83 クレオール
97 人新世
【読書案内】1-1、1-2
【読書案内】2-4 植民地主義=コロニアリズム
【読書案内】2-5 植民地主義とナショナリズムの相関
【読書案内】2-6 日本の近代をふりかえる
1-3-10. 20世紀はじめの世界
◆ ◆ ◆
2. 国際秩序の変化や大衆化と私たち
2-0. 国際秩序の変化や大衆化への問い
◆ 「国際秩序の変化」は、世界をどのように変えたの?
◆ 「大衆化」って、誰が、どうなること?
2-1-1. 大衆社会の時代
◆ 「大衆社会」って、誰が、どのようになる社会のこと?
48 大衆
49 メディア
2-1-2. 第一次世界大戦の展開
◆ 第一次世界大戦は、それまでの戦争とどんなところが違うの?
2-1-3. 国際協調体制の形成
◆ 第一次世界大戦後の世界平和の守り方は、それまでとはどのように変わったの?
2-1-4. ソヴィエト連邦の成立と社会主義
◆ 社会主義革命って、何がそんなに新しかったの?
2-1-5. アメリカ合衆国の台頭と大量消費社会
◆ 大量消費社会は、人々の暮らしをどう変えたの?
2-1-6. アジアの経済成長と移動する人々
◆ アジアの人々の中に、みんなで協力しようという動きは起きなかったの?
2-1-7. 反植民地主義の高揚と国際秩序の変容
2-1-8. 「大衆」の出現とその動向
◆ 「大衆」が力を持つようになると、社会はどんなふうに変わっていったの?
48 大衆
73 ヘイトスピーチ
2-1-9. マスメディアの発達と日常生活
49 メディア
2-2. 経済危機と第二次世界大戦
2-2-1. 世界恐慌
45 修正資本主義
2-2-2. アジア・アフリカと大衆社会
2-2-3. 国際協調体制の崩壊
46 全体主義
47 自由からの逃走
71 レイシズム
90 剥き出しの生
94 優生学・優生思想
【読書案内】2-4 全体主義
2-2-4. 日中戦争と深刻化する世界の危機
2-2-5. 第二次世界大戦の勃発
2-2-6. 第二次世界大戦における連合国と戦後構想
2-2-7. アジア・太平洋戦争と日本の敗戦
31 国民国家の功罪
【読書案内】2-6 日本の近代をふりかえる
【読書案内】2-7 近代国家としての日本の言語政策
2-2-8. 連合国の占領政策と日本の戦後改革
2-2-9. 連合国の占領政策と冷戦
2-2-10. 再編されるアジアと冷戦
3.グローバル化と私たち
3-1-1. 冷戦下の地域紛争と第三勢力
3-1-2. キューバ危機と核兵器の管理
3-1-3. 脱植民地化の進展と地域紛争
35 植民地主義
36 帝国の欺瞞
39 表象
40 ステレオタイプ
41 オリエンタリズム
42 エスノセントリズム
58 中心/周縁
71 レイシズム
82 ポストコロニル理論
83 クレオール
【読書案内】1-1、1-2
【読書案内】2-4 植民地主義=コロニアリズム
【読書案内】2-5 植民地主義とナショナリズムの相関
【読書案内】2-6 日本の近代をふりかえる
【読書案内】2-7 近代国家としての日本の言語政策
3-1-4. 計画経済と開発
3-1-5. 冷戦下の日本とアジア
3-1-6. 日本と欧米先進国の経済成長
3-1-7. 地域連携の拡大
3-1-8. ベトナム戦争と冷戦構造の変容
3-2.世界秩序の変容と日本
3-2-1.問い直される「近代」
64 アイデンティティ
67 フェミニズム
68 LGBT
69 ジェンダー
75 多文化共生社会
76 文化相対主義
3-2-2.石油危機と経済の自由化
85 新自由主義
86 グローバリゼーション
95 有用/無用
3-2-3. アジアの経済発展と日本
3-2-3-1. 開発援助の世界史
97 人新世
3-2-4. 冷戦の終結と世界
66 ポストモダン
3-2-5. 拡散する地域紛争・テロ
3-2-6. 民主化の進展
87 ポピュリズム
91 これからの民主主義
【読書案内】2-3 ポピュリズム
【読書案内】2-4 代議制民主主義の限界を超える
3-2-7. グローバル化と地域統合
3-2-8. 「平成」という転換点
84 歴史修正主義
98 カルト
99 ケアの倫理
100 レジリエンス
このたびはお読みくださり、どうもありがとうございます😊