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2023年7月の記事一覧

【読書ノート】『無性教室』(『丸の内魔法少女ミラクリーナ』より)

【読書ノート】『無性教室』(『丸の内魔法少女ミラクリーナ』より)

『無性教室』(『丸の内魔法少女ミラクリーナ』より)
村田沙耶香著

主な登場人物は、
ユート(本名は優子):主人公で「私」
セナ
ユキ
コウ
ミズキ

一言で言うと、性別が禁止された高校で起こるさまざまな出来事をめぐる物語。

この学校では、性別が、わかるような格好や髪型が、禁止されている。
トランスシャツという、胸が潰れた状態にするシャツが、制服になっている。そして、誰もが、自分のことを「僕」

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『円』(短編集『円』より)

『円』(短編集『円』より)

『円』(短編集『円』より)

劉慈欣(りゅう じきん)著

時は秦の始皇帝の時代。刺客として送り込まれていた燕の荊軻(ケイカ)が、秦の始皇帝の前で、自害しようというところから物語は始まる。

その後、荊軻は、始皇帝に認められるようになる。かねてから始皇帝は、不老不死の薬を求めて各地に遣いをやっていたのだけれど、なかなかうまくいかないでいた。

荊軻に意見を聞くと、意外な答えが来た。いわゆる円周率を

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『死体裁判』

『死体裁判』

『死体裁判』
月乃宮千晶著

きのもとよしえというホラー作家が、原告となる民事裁判の物語。

きのもとよしえは、恋人のコウジが持ちかけた資産運用の話に乗って、2450万をコウジに預けた。ところが、コウジは、その運用資金を失ってしまう。そこで、運用資金を取り返すために彼女は、コウジを裁判で訴えたのだった。
物語は第二回目の口頭弁論の地方裁判所にきもとよしえが入るところから始まる。

すべてが、妄想の

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『バナナフィッシュにうってつけの日』(『ナイン・ストーリーズ』より)

『バナナフィッシュにうってつけの日』(『ナイン・ストーリーズ』より)

『バナナフィッシュにうってつけの日』(『ナイン・ストーリーズ』より)
サリンジャー著

なかなか、難解な物語なのだけどね。まず、主な登場人物は、

1. シーモア:主人公。、感受性豊かな帰還兵で、現代社会に馴染めず、ないでいる。
2. ミュリエル:消費主義に染まったシーモアの妻。
3. ミュリエルの母:自分の生活やファッションにだけ興味がある。
4. シビル:幼い女の子で、純真さの象徴。
5. シ

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『神の子どもたちはみな踊る』村上春樹著

『神の子どもたちはみな踊る』村上春樹著

『神の子どもたちはみな踊る』
村上春樹著

阪神大震災とサリン事件を受けて書かれた物語と言われている。
文字を追って読むと、複雑な想いとか、ずっしりくる重さと軽やかさを感じるのだけど、何だか、スッキリしない。

テーマは何なのか探ってみたい。

まず、主な登場人物

善也:25歳の男性で、宗教に没頭する母親と暮らし、父親は不明。
母親:善也の母は18歳で彼を出産し、相手との関係が壊れた後、宗教に没

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「さがしもの」(短編集『さがしもの』の同名タイトル)

「さがしもの」(短編集『さがしもの』の同名タイトル)

「さがしもの」(短編集『さがしもの』の同名タイトル)
角田光代著

余命いくばくもない祖母のお使いとして、ある本をさがして欲しいと主人公の羊子は、頼まれる。そして、祖母の死後にその本を見つける。という話。

この物語をより深く楽しむためのキーワードを上げる。

①"さがしもの"という言葉は、
人生の目的、真理、幸せ、自己理解など、個々の人生で探し求めている抽象的な目標や価値を象徴する。

②"本"

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『百万円煎餅』(『憂国』より)

『百万円煎餅』(『憂国』より)

『百万円煎餅』(『憂国』より)
三島由紀夫著

主な登場人物

1.健造(けんぞう)
清子の夫。夫婦で本番行為のエロ・ショーをしている。
2.清子(きよこ)
健造の妻。夫婦で本番行為のエロ・ショーをしている。
3.おばさん(おばさん)
本番行為のエロ・ショーの斡旋業をしている。

健造と清子は浅草の新世界ビルで時間を潰している時に"百万円煎餅"を購入した。約束の時間に、彼らはおばさんに会い、彼らの

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『シェエラザード』(『女のいない男たち』より)

『シェエラザード』(『女のいない男たち』より)

『シェエラザード』(『女のいない男たち』より)
村上春樹

羽原は、何かの理由で「ハウス」という場所で、隠遁生活を送っている。名前不明の女性が週2回彼の元を訪れ、食品を提供し、性的な関係を持つ。

『羽原と一度性交するたびに、彼女はひとつ興味深い、不思議な話を聞かせてくれた。』という言葉で物語は、始まる。主人公の羽原は、彼女の行為を見て、"シェエラザード"(「千夜一夜物語」の主な語り手)と勝手に名

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『糸を渡す』

『糸を渡す』

『糸を渡す』(短編集『ぎょらん』より)
町田その子著

主人公は美生という女子高生。
父親が突然家出をしてしまうところから、物語は始まる。

母親の望む通りに生きてきた典型的な良い子なのだけど、高校生にもなって来ると母親の理想と自分の現実の違いにうんざりするようになり、ある事件をらきっかけに、母、娘は、大喧嘩をして、ほとんど口を聞かなくなっていく。それが、きっかけに父親が、家出をしたのだった。

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『脳内麻薬』

『脳内麻薬』

『脳内麻薬』
中野信子著

一言で言うと、「ドーパミン」は、人間の行動や感情に大きな影響を与える脳内物質だということ。ドーパミンは、人間にとって必要なものではあるものの、過剰になると依存症や暴走を引き起こす。逆に不足すると、やる気や幸福感が低下する。

印象に残ったこと。

①世帯年収別に「幸福感」によると所得 1500万円までは、所得とともに幸福度さ上昇する。それを超える低下する。

②店員の笑

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『寒山拾得』

『寒山拾得』

『寒山拾得』
森鴎外著

唐の貞観の時代というのは、西洋では7世紀の初めのころ、台州の知事の閭丘胤(りょきゅういん)は、頭痛に悩まされていた。そこに、乞食僧、豊干(ほうかん)が現れ、あるまじないを唱えられて、閭丘胤の頭痛が解消する。

豊干は閭に、天台山の国清寺に住む二人の聖人、寒山と拾得に面会することを推奨したのたまった。豊干によれば、これらの聖人はそれぞれ文殊菩薩(智慧や学問の象徴)と普賢菩薩

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『人間腸詰』

『人間腸詰』

『人間腸詰』
夢野久作著

大工の治吉〈あっし〉が、セントルイス万博に台湾館を造るため渡米した時の怖い体験話。

明治三十七年(1904年)正月

〈あっし〉が、台湾館の前で呼び込みをしているところに、チイチイとフイフイという女性がやってくる。〈あっし〉はチイチイにギャングの元へ連れて行かれ、拉致される。そこに、フイフイが現れて、彼女は肉挽き機械に投げ込まれてしまう。〈あっし〉はこれにショックを受

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『パン屋再襲撃』

『パン屋再襲撃』

『パン屋再襲撃』(短編集『パン屋再襲撃』より、表題タイトルの作品)
 
村上春樹著
 

物語は、新婚の夫婦が深夜に突然、耐え難い空腹を覚えるところから始まる。冷蔵庫にはビールと玉葱とバターとドレッシングと脱臭剤しか入っていなかった。妻は、夫がかつて親友と行ったパン屋襲撃の失敗が、夫婦に呪いとして降りかかっているせいだという。二人はかけられた呪いを解くために散弾銃で武装し、マクドナルドを襲うという

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『「死ぬとき幸福な人」に共通する7つのこと』

『「死ぬとき幸福な人」に共通する7つのこと』

『「死ぬとき幸福な人」に共通する7つのこと』
小澤竹俊著

著者は、1963年東京生まれで、1987年に東京慈恵会医科大学を卒業し、1991年に山形大学大学院医学研究科の博士課程を修了。救命救急センターや農村医療に従事した後、1994年から横浜甦生病院ホスピス病棟にて病棟長を務め、3000人以上の患者を看取った。2006年にめぐみ在宅クリニックを開院し、2015年には一般社団法人エンドオブライフ・

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