【本の要約】 鈴木祐さんの『最高の体調』をまとめてみた。狩猟採集民族の生活から探る、「最高のパフォーマンス」を得るための科学的なメソッド!
こんにちは。今回は初の試みとして、本の要約をしてみたいと思います。
最初にご紹介するのは鈴木祐さんの『最高の体調』という本です。
サイエンスライターである鈴木さんは本をいくつも執筆されています。『無(最高の状態)』『ヤバイ集中力』などで知られていて、今回ご紹介する『最高の体調』は15万部以上も売れたベストセラーです。コミック版も発売しています。鈴木さんは16歳から科学論文を年間5,000本以上読まれていて、「日本一の文献オタク」を自称しています。
僕もいくつか鈴木さんの本を読みましたが、どの本にも共通するのは「圧倒的な情報量」です。実際に読まれてみるとわかりますが、論文や研究事例の引用の多さに驚かされます。「文献オタク」と自称されているのも頷けます。
さて、ここから『最高の体調』の紹介に入ります。
本書は、「現代人に蔓延る不安・うつ病・慢性疲労・肥満・集中力低下など一見バラバラに見える原因が根本まで掘り下げると全て関連している、一本の線でつながる」と説き、その解決策を提示してくれています。
「最もパフォーマンスを上げるための体調」に近づける方法を多くの論文を引用しながら紹介しています。
1.「文明病とは」
鈴木さんは私たちの生活上での不調の要因は「文明病」に集約されると主張しています。「文明病」とは、近代社会の変化によって引き起こされる、現代に特有の病気や症状を意味します。
「進化論」をベースに考えてみましょう。最新の研究では、現在の人類の基礎はおよそ700万年前と言われています。現代人と猿人の中間的存在であるヒト科が生まれたのはこの時代で、ここから独自の進化コースに入りました。
そこから人類は少しずつ進化を続け、1~2万年前にようやく農耕生活に移行します。つまり、少なくとも人類は600万年にわたり狩猟採集生活を続けてきました。
人類は自然の中で獲物を追い、太陽の運行とともに起床・就寝し、少数の仲間と語り合ってきました。人間の脳と体はそんな環境の中でこそ最高のパフォーマンスを発揮するように進化したのです。
しかし、現代はハイカロリーな食事に溢れ、昼夜逆転の生活をしている人も多く、PCやスマホなどのデジタルデバイスに囲まれています。運動不足の状態にある人が多く、最近では孤独も社会問題となっています。そして、仕事の納期やSNSの人間関係など日常的に小さなストレスに晒されて続けています。
肥満について考えてみましょう。肥満が過去にはなく現代人特有の病気である話は有名かと思います。カロリーが摂取しづらかった狩猟採集時代は、食糧にありつけず1日中何も食べない日も当たり前でした。狩猟採集民にとって肥満は縁がない病気です。一方で、文明が発展しカロリーが摂取しやすい時代に入ると、状況は一変します。カロリー過多になり、私たちは肥満体になり、様々な合併症に苦しみます。身体は食糧を取らずとも生き延びれるように進化したままであるのに対し、私たちを取り巻く状況だけが大きく変化したのです。
人間の脳と体の進化のスピードは非常に緩やかです。数百万年単位で変化すると言われています。一方で、産業革命やIT革命などを通じて、ヒトを取り巻く環境は物凄いスピードで変化しています。人類の歴史を1日に置き換えると、ネットを使用している時代はほんの1秒にも満たないと言われています。この脳と身体が環境の変化に適応できていない状態で起こる不一致こそが不調の原因であり、これを鈴木さんは「文明病」と表現しています。
スマホのようなデジタルデバイスが近くにあるだけで認知機能が大きく低下すると言われています。集中力が大きく低下します。スマホが近くにあると、目の前の作業に使える認知のリソースが減ってしまうのです。現代人の集中力の低下も立派な文明病の一つなのです。
ちなみに、人類の進化スピードと環境の変化のズレによる不調について扱った書籍には、スウェーデンの精神科医のアンデシュ・ハンセン氏の『スマホ脳』があります。すごくヒットした書籍でご存知の方も多いと思います。僕も読みましたが、スマホが私たちの脳にもたらす悪影響について「これでもか」というくらい説明していて読み応えがありました。同じ著者が書いた『ストレス脳』や『運動脳』もオススメです。
それでは、ここから文明病が原因で起こる諸問題について紹介していきます。
2.文明病の事例と対策
① 内臓脂肪
現代人は狩猟採集時代と比較して内臓脂肪が多く、身体の炎症の原因となっていると鈴木さんは言います。身体の炎症が起こると全身の機能のパフォーマンス低下につながります。
内臓脂肪が減らない限り体はじわじわと燃え続け、炎症性物質による血管や細胞の動脈硬化や脳梗塞の引き金となります。
慢性的な運動不足も内臓不足の大きな要因です。
② 睡眠
睡眠不足も身体の炎症を引き起こします。
・平均の睡眠時間が1日7~9時間の範囲を逸脱すると体内の炎症マーカーが激増する
・夜中に何度も目が覚めてしまい場合も体内の炎症は増える
ナミビアやタンザニアの狩猟採集民の睡眠を計測すると、彼らの平均時間は7~8時間前後で、太陽の運行とともに入眠・起床をパターンとして繰り返すようです。何度も目が覚めるようなケースは一度も見られないとのことです。そもそも彼らには「不眠」や「寝不足」を表す単語すら存在しません。彼らが日常的に身体を動かし日光をたくさん浴びることが彼らの睡眠が良質である理由だと僕は推測します。
効果的な昼寝の方法が紹介されていました。
どこか寝足りない気分が続くときは、12~14時までの間に15~20分の昼寝を挟みます。眠れなくても10分間目を閉じる時間を作るだけで夜中の睡眠は確実に改善するそうです。さらに生産性を高めたい場合は、昼寝の直前に200mgのカフェインを飲む「コーヒーナップ」も効果的とのことです。
③ 孤独
科学の世界では「孤独がもたらす人体への害」がじわじわと注目され始めています。
孤独感が強い人は、タバコや肥満と同じくらい全身に炎症を起こし早死にのリスクを高めます。孤独感が強い人は早期死亡率が26%も高まり、社会からの孤立が長引けば、その数字は32%まで高まります。
人類は長らく社会的な動物として進化して、生涯で100人前後のユニットで行動していました。古代の厳しい環境ではグループからの離脱は死を意味します。大型の肉食獣に捕食されたり他部族に殺されたり、食糧にありつけず餓死をします。
私たちの脳には「人間関係が希薄な環境」に対応するシステムが備わっていません。ハーバード大学が1939年にスタートして約80年以上にわたって行っている研究では、わたしたちの体を健康にし、心を幸福にしてくれるものは「良い人間関係」であると結論づけています。
④ 不安
不安障害の発症率には大きな地域差が見られます。2017年にWHOが世界26カ国で行った調査では、不安障害の患者数はほぼ各国の近代化のレベルに対応しています。アメリカやオーストラリアでは不安障害の発症率が8%だったのに対し、ナイジェリアのような途上国ではたったの0.1%だったようです。「文明化」が不安の原因であると結論づけています。
著書は文明社会の特有の不安の原因は主に、仕事上での不安と、コミュニケーションの不安と位置付けています。狩猟採集民のコミュニティは最大でも200人程度がリミットで、見知らぬ相手とコミュニケーションをとるケースはまずありません。一方で、現代ではSNSなどを通じて見知らぬ人とコミュニケーションをとる機会が多いです。脳は「顔見知り」の少人数と対話をするリソースしか持っていません。このギャップが不安を生み出していると著者は言います。
もともとわたしたちの脳は見知らぬ他人とうまく人間関係を作るように設計されていません。人口の流動性が高まった現代では外部との交流は日常的になりました。しかし、狩猟採集時代は上記の通り100人前後で生活していたと言われています。人の脳の認知リソースは大勢の友人を捌くようにはできていないのです。1回につき5人前後としか親密な人間関係を築けない、とまで言われています。
希薄すぎる人間関係も孤独の原因となりますが、大勢の見知らぬ人とのコミュニケーションはストレスの原因となります。
慢性的な不安は下記の原因となります。
・記憶力の低下(脳の海馬の縮小化)
・判断力の低下(理性脳の働きの低下)
・死亡リスクの増大(脳卒中のリスクが29%上昇)
また、文明社会の人々の不安が強い原因として、現代人が未来を予測する能力を手に入れたからだと説明されています。狩猟採集民は未来を重んじず「今ここ」に集中する度合いが現代人と比較すると弱いと言われています。
未来を予測することは不安の原因となります。この理由や狩猟採集民が未来を重んじない理由については長くなるのでここでは割愛しますが、本書では丁寧に解説されています。
⑤ 免疫システム
現代の衛生設備や抗生物質の発明によりわたしたちの免疫システムに異常が現れています。抗生物質が腸内の善玉菌を殺し、衛生設備が有用な菌との接触を妨げます。また、環境内の微生物や寄生虫との接触が免疫系の生理反応を司る重要な役割を果たしてきましたが、その接触が激減しています。
腸内細菌は食物繊維を多く食べて繁殖しますが、現代人の食物繊維摂取量は減少しています。1日の食物繊維摂取量は、厚労省は20~27gと定めていますが、今の日本人は13~17gのみです。一方で、狩猟採集民は42gも摂取していると言います。
食物繊維の摂取量が1日10g増えるごとに早期死亡率は11%ずつ減ります。
また、筆者は腸内環境の正常化のために、ビフィズス菌・乳酸菌・酪酸菌・糖化菌の摂取を勧めています。
免疫システムの正常化に向けて、筆者は下記の実践を進めています。
・抗生物質を無闇に使わない。
・抗菌グッズや殺菌グッズの排除
(成分に「トリクロサン」「トリクロカルバン」の入ったものは注意。汚れを落とすなら石鹸で十分。)
・空気をきれいに保つ(HEPAフィルタを使った空気清浄機の使用)
・発酵食品(1日に40~50g)
・食物繊維とプロバイオティクス
⑥ 運動
狩猟採集民は毎日獲物を追って移動を続けてきました。1日におよそ1万~2.5万歩の移動が当たり前だったようです。しかし現代人は座っている時間の方が長く、慢性的な運動不足の状態に晒されています。2016年のキャンベラ大学によるメタ分析によると、どんな運動でもある程度の負荷があれば脳には良い影響があるということがわかりました。
運動で脳のパフォーマンスが上がる最低ラインは以下の通りです。
・1回のセッションで45~60分の運動でストレスが改善し認知機能も向上
・「週に2回の運動」と「週に4回の運動」を比較した結果、両者に大きな効果はない
・運動のレベルは「軽く息が上がるくらい」から「ヘトヘトになるくらい」の範囲で行わないと意味がない。
基本的には「1日45分の少しきつい運動を週に2回」のペースで行うのが脳機能アップに最低のライン、とのこと。
運動がストレスに効く理由は諸説ありますが、最も有力視されているのは「エクササイズが体のストレス対策システムを鍛えてくれる」という考え方です。循環器系や筋肉は脳の神経とつながっていて普段から相互にやり取りをしていますが、運動をしないと脳神経と体のつながりが弱まり連携が取れなくなります。人間のストレス対策システムは脳から臓器への連携がスムーズでないとうまく働きません。
ウォーキングの目安は、週に2~3日のペースで12分以上の早歩き(時速6km以上)を行うのが最低ラインです。日が沈んだあたりから心地よい疲れを感じるくらいが睡眠の質をあげる最適な運動量と言われています。
上で触れた『運動脳』もオススメです。狩猟採集民の「移動」に着目し、現代人にとって最もパフォーマンスを上げる運動の仕方について、論じています。
3.さいごに
いかがでしたでしょうか。今回は僕のnoteで初めて本の要約をさせていただきました。「要約」と言っても、本書のほんの一部しか紹介できていません。それほど、情報量が多く読み応えのある本なのです。
文明病について調べれば、脳や体のパフォーマンスを上げる最適な暮らしについてヒントを得ることができます。
少しでも興味がある方は書籍を購入して読んでみてください。
また、鈴木祐さんの『無(最高の状態)』も非常に良かったです。マインドフルネスや、私のnoteでもたまに触れるデフォルト・モード・ネットワーク(DMN)についても理解が深まります。この本でも文明病についても扱っていて興味深いです。
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