女神の名は・・・ part.Ⅵ
みなさん、こんばんは。綺羅です。
今日もnoteをご覧いただき、ありがとうございます。
日中が暑いのはもちろんですが、夕暮れ時の西日もまた、凄まじい太陽光だと思うこの頃です。
日の入りは、日々早くなってきている感覚はあるのですが、夜になっても気温が下がらずにいるので、1日中”昼”の状態でいるような気がしています。
引き続き、熱中症には気を付けていきたいですね。
私の相棒が逝ってしまってから、最初の夏を迎えているのですが、今も隣で、私がパソコンのキーボードを打つ音を聞きながらそばで寝ているような感覚です。
数日は姿形がなくなって、寂しい思いをしましたが、私が生きている限り、彼女はいつも、隣で見守ってくれていることと思います。
・・・そう、それは、”食事の時間以外について”は、です。
食事の時間だけは、お互いに譲ることのない戦いを、繰り広げていました。
🐕
一体何分間、この体勢でいるのだろう。
正直体勢に疲れてきたけれど、諦めるわけにはいかない。
なぜなら目の前には、私の愛する柴犬が、椅子の上で優雅に座りながら、まばたきもせずに熱い視線を送ってくれている。
一方の私は、彼女と同じ目線の高さにまでしゃがみ込み、右手に食べかけのゆで卵、口には黄身のモサモサ感と、白身のツルツル感を共存させていた。
普通に噛んで飲み込むハズだったのに、そうもいかなくなった。
彼女の視線の先は、私ではなく「ゆで卵」。
そう、彼女は私の「ゆで卵」を狙っている。
・・・フーちゃん、あなた犬だよね?
『きらちゃん、フーちゃんもそれすきだよ。』
「フーちゃん、これ私のゆで卵だから!」
『うん、おいしそうだね。フーちゃんもそれたべられる。』
「あなた今さっきたべたでしょ?」
『もうなくなったよ。でもここにまだある。』
・・・なんてことを言ってくれているんだ、この子は!
いや、正直に「ダメ」という方が早いだろうし、態度としても「視線を無視する」ことを貫く方が、犬にとっての「ゆでを卵くれない」という認識を、はっきりと分からせるのにはいいのかもしれない。
ただ、そうした態度を取るのにも、難しい状況だった。
母が全面的に、フーちゃんの味方になって「綺羅、フーちゃんにもゆで卵を分けてあげればどう?」と言って、私とこの子の成り行きを見守っている。
最初はあんなに、フーちゃんを「返品する」と叫んでいた人物と同じだったなんて、到底思えない。
母は根底からの「犬好き」だから、「うちに馴染めばすべてよし」に、方向転換したのだろうか。
いろいろ考えた所で、彼女は目線を逸らさない。
むしろじりじりと迫ってくる。
こうなったのには、数分前の出来事に遡る。
迂闊にも、犬の前で、食べ物を食べてはいけなかったのだ・・・。
🍳
この頃のフーちゃんは「ゆで卵」が大好きだった。
何をきっかけに食べ始めたのかは分からないけれど、私は犬について、自分の現在の体験と共に、色々と知り始めていた。
その中で最も驚いたことの1つ、
「犬も人間の食べ物食べるの?え、嘘でしょ?」
「嘘じゃないよ。お米食べる子もいるし、あんたが生まれる前に飼っていた犬は、生きていた間、ほとんどドッグフード食べてないからね。」
母から聞いた衝撃の言葉。
ドッグフード食べてないのかよ、むしろ犬が人間なのか?!
自分でノリツッコミしながら、本当に驚きを隠せなかった。
犬の生態や習慣の知識に関しては、本屋に売ってあるような『柴犬のしつけ方』とか『はじめての柴犬』といったマニュアル的なことしか分からなかった。
この子を連れて帰ったペットショップも、「ドッグフード」を食べることを前提に、食事の説明もされていたから。
そうしたことからも「犬は、ドッグフード”しか”食べない」と、本気で思っていた。
・・・でも、現実は全然違った。
フーちゃんはドッグフードも食べているけれど、人間の食べ物を食べている時には、明らかに食べ物に向かうテンションが違う。
犬のごはんは、すごく嫌そうに口を開くのに、人間のごはんを食べるとなると、もはや顔全体で、その食べ物に向かって突っ込んでくる。
そんな、そんな相手に、私はやらかしてしまったのだ。
フーちゃんは、自分のごはんをもらって得心して、お気に入りのいすの上でくつろいでいた。
その姿がとても可愛らしくて、私は、手に持っていたゆで卵の存在を忘れて、それを口に運びながらフーちゃんを眺める体勢を取ってしまっていたのだった。
フーちゃんは「どうしたの?」と言わんばかりの顔で見てきた。
そんな中、見つめ続けられるきっかけになる、とどめの一言を発してしまったのだ。
「フーちゃん、これいいでしょー?ゆで卵だよ~。」
残念ながら私は、フーちゃんの食べ物狩りのスイッチを入れてしまったことに、気付かなかったのだった。
🐕
『きらちゃん、フーちゃんそれすきだよ。たべられるよ!』
「うん、そっか。」
『いいな、いいな、フーちゃんもそれほしいな。』
「・・・フーちゃんさっき食べたじゃん?」
『フーちゃんはもうたべちゃったけど、きらちゃんがもってる。』
「これは私のゆでたまごだよ?」
『きらちゃんと、おなじたべものがすきなんだよ。』
「・・・・・・。」
話は平行線を保ったままで、彼女が引き下がる様子はない。
対して、私は引き下がりたいのに、それを母は許してくれない。
むしろ先ほどから「あんたがフーちゃんの前で食べるからでしょ?そんなかわいそうなことしておいて、自分で全部食べる気?」と、言われる始末。
その言葉の援助を受けて、フーちゃんはどんどん私の顔に向かって迫ってくる。
そうだ、私が悪かったのは認める。
だからといって、お詫びに「ゆで卵を分けてあげる」ことは、別問題なはずだ!
べ・・・別なんだ!!
ううっ、別問題なんだから、そんな、そんなキラキラした瞳で、私を見るなぁぁああ!!
うわぁぁあああぁぁぁあああ!!
・・・・・・。
犬の目の前で、好きな食べ物なんて食べるものじゃない。
標的にされると最後、こちらが諦めるまで交渉を続けてくる。
自分のかわいさに、飼い主がメロメロになるのを知っていて、表情巧みに迫ってくる。
なんて奴だ!
ただ、分けて食べた時に、彼女は最高に幸せいっぱい表情をしていた。
その瞳は、私と同じ物を食べている「嬉しさ」みたいなものが伝わってきて、あれだけ食べ物を渡すことが嫌だった私の気持ちは、その眼差しを見られただけで、帳消しになったような気がした。
同じ物を食べる喜び。
それは、信頼の証なのかもしれない。
今回、ゆで卵の形をした「信頼」を、私と彼女は分け合って食べた。
その味は、今まで食べてきたた「卵」の中で、忘れられない「ゆで卵」になった。
今でも、ゆで卵を食べる時に、同時に思う。
「フーちゃん、今日は『ゆで卵』だよ。私の口を通して、一緒に食べよう!」
私の単調な生活は、あなたがここに来てから廻り始めた。
あなたは私に「一緒に何かをする幸せ」を、分けていてくれたんだね。
『きづくのがおそいわよ。』って言いながら、あなたは私が気付くのを待っていてくれた。
それを知ることになるのは、当分後になってからのことだけど、あなたがくれた「豊かさ」は、今でもあの時のまま、輝いているよ。
女神の名は・・・。
🍳
みなさんからの、スキやコメントやフォローは、私の心を豊かにしてくれます。
この記事にお時間をいただき、ありがとうございました!
それでは、今日はここまでです。
みなさん、暑い日が続きますのでご自愛くださいね。