手打ちそば屋 かんだた

長野市の善光寺に程近い古い街、権堂の路地裏で、小さな手打ちそば屋をやっています。老体に鞭打って、ああ、腰が痛いなどと言いながら、毎日そばを打っております。

手打ちそば屋 かんだた

長野市の善光寺に程近い古い街、権堂の路地裏で、小さな手打ちそば屋をやっています。老体に鞭打って、ああ、腰が痛いなどと言いながら、毎日そばを打っております。

最近の記事

そばには毒がある〜〜こんな風評被害があった。(役に立たないそば屋の話16)

「困ったなあ。」 そば屋の太兵衛さんが渋い顔をしている。 「困ったなあ。」 やはりそば屋仲間の弥太郎さんも、 同じように眉間にしわを寄せて、相づちを打っている。 「どうしたものだろう。」 がらんとした店の中を見回しながら、 太兵衛さんが言うと、 「さあ、どうしたものだろう。」 と、弥太郎さんも、生気のない顔で答える。 隣り合わせで張り合って、 そば屋をやっていた二人だが、 今日は顔を突き合わせて相談している。 それほど、深刻な事態が起こっているわけだ。 場所は江戸、 時は

    • そば湯をかき混ぜて飲むのは、、、、。(役に立たないそば屋の話15)

       そばを食べた後に出てくるそば湯。  その入れ物のことを「湯桶」と言いう。  その読み方は「ゆとう」。  訓読みと音読みが混ざったこのような読み方を  湯桶読みというのだ。  と言う話を、遠い昔に習ったような、気がする。  いったい湯桶って何だろうって、不思議に思ったのを覚えている。  さて、あなたは、親しい友人からこう言われました。  「みんな、あなたのことを『そば屋の湯桶』だって言っているよ。」  あなたは褒められているの、それとも批判されたの?  私が育ったのは、

      • そば好きだった稲荷大明神(役に立たないそば屋の話14)

        古い時代から、人々の信仰を集める善光寺。 この善光寺には、 人間ばかりではなく、 動物にも、篤い信心を持つものもいたそうだ。 本堂の西側にある経蔵の横に、 古びた簡素な灯籠が立っている。 よく見ると、四角い石の角が、 細かく削られている。 これは、ご利益に預かろうとする参拝の人たちが、 何か固いもので、削り取った跡らしい。 この灯籠は、 「むじな灯籠」と呼ばれている。 なんでも、下総の国(今の千葉県)から、 はるばるとやってきたムジナが、 人間に姿を変え、この灯籠を寄進し

        • そばなんか、金を払って食べるものじゃない。(役に立たないそば屋の話13)

          讃岐と言えば、うどん。 うどんと言えば讃岐。 というぐらいのうどん処、香川県。 以前に、高松に行って驚いた。 至る所にうどん屋さんがあるではないか。 定食屋に入って、 トンカツ定食などを注文すると、 「うどんにしますか、ご飯にしますか。」 などと聞かれる。 早朝から開いている店があって、 朝食にうどんを手繰る人がいる。 午後の時間、ちょっと小腹が空いた時も、 開いているうどん屋さんがある。 驚いたのは、 タクシーで連れていかれた、 畑の中のビニールハウス。 その中で、

          おかめの鼻には松茸。(役に立たないそば屋の話12)

          秋の味覚といわれる、松茸。 みなさん、今年は何回松茸をお食べになりましたか。 私なんかもう、数十回も、、 食べたいなあと思うのだけれど、 実物は一度も。 採れたての松茸は、火にあぶって、 熱いところを手で裂いて食べる。 これが最高。 こりこりとした歯ごたえが、たまらない。 でも、松茸の産地である長野県でも、 ちょっと、手に入れるのは難しい高嶺の花。 さあ、そばにも、その松茸を使ったものがあるようで。 東京の老舗のそば屋さんのお品書きの中に、 「おかめ」というのがある。

          おかめの鼻には松茸。(役に立たないそば屋の話12)

          恥ずかしがり屋の天狗岳へ

          ええい、 晴れろ、晴れろ。 チチンプイプイ、キリよ晴れろ! 九月初めの八ヶ岳、 天狗岳へ続く稜線。 ノロノロ台風も、 もういなくなるだろうと思っていたのに、 この、モヤモヤとした天気はなんだ! 東天狗岳頂上まで、あと、30分もかからない。 なのに、私たちは躊躇していた。 また登っても、霧に包まれて、 何も見えないのではないか。 山頂から、硫黄岳はおろか、 赤岳や阿弥陀岳も望めないのではないか。 宿泊した本沢温泉から、 急な山道を登って、 この稜線にやっと辿り着いたとこ

          恥ずかしがり屋の天狗岳へ

          そばは噛んではいけない、えっ?(役に立たないそば屋の話11)

           東京で過ごした若い頃、よく寄席に通った。  鈴本だったか、末広亭だったか忘れたが、  ある時「小さん」がひょいと顔を出した。  今では息子さんが「六代目 小さん」を継いだけれど、  これは先代の「小さん」。  丸顔の、ひょうきんな表情が印象的な師匠だった。  当時はまだ人間国宝にはなっていなかったけれど、  落語界では、もうかなりの大物、  本来なら「とり」をとるべきなのに、  こんな寄席の中頃に出てくるなんて。  驚いてプログラムを見ても「小さん」の名前はない。  

          そばは噛んではいけない、えっ?(役に立たないそば屋の話11)

          そばに年貢だなんて、そんな杓子定規な、、、。(役にたたないそば屋の話10)

           今回は時代劇です。  みなさんも江戸時代を  懐かしく思い出しながらお読み下さい。  家康が江戸幕府を開いて百数十年。  信州のとある天領(幕府の直轄地)に  一人の旗本が、代官として赴任してきた。    その代官は、江戸幕府の誇るエリート中のエリート。  重鎮の間では将来を嘱望される存在。  その名を「杓子定規(しゃくしじょうぎ)」と呼ぶ。    ちゃんちゃんちゃん。  さて、地元の百姓たちは、  びくびくしながら新しい代官を迎えた。  なにしろ、代官のさじ加減一つ

          そばに年貢だなんて、そんな杓子定規な、、、。(役にたたないそば屋の話10)

          ドラえもんが打った「そば」は「手打ちそば」?(役に立たないそば屋の話9)

          近頃は、悩み事があってどうもよく眠れない。 夢の中でも、う〜んどっちだろうと迷っていたりする。 その悩みとは。 もし、鉄腕アトムがそばを打ったら、 「手打ちそば」というのだろうか。 リモコンで動く鉄人28号が、そばを打ったらどうなるのか。 スーパーロボットであるエイトマンが(古キャラばかりで申し訳ない) 鉢巻きをしてそばを打っても、「手打ちそば」というのだろうか。 なんだ、そんなことかと笑われそうだが、 私にとっては、とても深刻な問題なのだ。 若い時に、というから、

          ドラえもんが打った「そば」は「手打ちそば」?(役に立たないそば屋の話9)

          「そば前」も「中割り」も「箸洗いも」。(役に立たないそば屋の話8)

           私の知り合いの中には、  こんなことを言う方がいる。  「おおい、酒の後にそばを喰いたいねえ。」  エエイ、駄目駄目、  「酒の後にそば」なんて言う人には、  酒もそばも出してあげない。  「ええと、そばの前に酒をもらおうか。」    おっ、うれしいね。  こういうことを言う人には、  どどんと、酒もそばもお出ししたい。  いつの頃からか、そばには、酒がつきものになっている。    「そば前」といえば、  そばを食べる前に飲む酒のこと。    「中割り」といえば、

          「そば前」も「中割り」も「箸洗いも」。(役に立たないそば屋の話8)

          殿様の召し上がる御前そば。(役に立たないそば屋の話7)

           「そば屋の出前」といえば、  催促されたことに、  その場で適当な言い訳をすることの  代名詞となってしまった。  そば屋に出前の注文を入れたのに、  なかなか来ない。  催促の電話を入れると、  「今、でました。」と返事をされる。  実際は、忙しくて、まだ作っていなかったりするのにね。  「そば屋の出前」状態で、  言い訳をしいしい、仕事をこなしている、  忙しい方もいらっしゃることだろう。  お得意さまからは、  「そば屋の出前じゃないんだぞ。」  と釘を刺されたり

          殿様の召し上がる御前そば。(役に立たないそば屋の話7)

           石臼ゴロゴロ。(役に立たないそば屋の話6)  

            「そばほど贅沢な食べ物はないですよ。」 そばの製粉の機械を作っている方が、こうおっしゃっている。 「これだけ食べるのに、手がかかる食べ物は、  まず、他にはないでしょう。」   そう、そば畑から、そば屋のせいろに盛られるまで、 そばは、実にたくさんの手数を掛けられているのだ。 そば屋だって、粉から麺にするまで、 ずいぶんと時間と手間がかかる。 特に、私のような手打ちの場合は、 なおさら体を働かせなければならない。 だけど本当は、その前の仕事、 そばの実から粉にするまで

           石臼ゴロゴロ。(役に立たないそば屋の話6)  

          そばののし板は、何年かかって作られる。(役に立たないそば屋の話5)

           強烈だった暑さも、  やっと緩んできたかと感じられる季節。  「かんだた」のある長野市の中心部、  善光寺に続く表参道の街路樹も、  濃い緑の中に、少し焼けた葉が混ざっていたりする。  その緑のざわめきの向こうに、  仁王門の屋根が踊っているのが見通せる。  このあたりの街路樹は、  ちょっと珍しい桂(かつら)の木。  少し浅めのハートの形の、小さな葉っぱが特徴的だ。  二十数年前に植えられ、地元の商店街の方々が、  大切に世話をして育てたと聞いている。  どうしてこの

          そばののし板は、何年かかって作られる。(役に立たないそば屋の話5)

          「令和」とは、どんな割り箸? (役に立たないそば屋の話4)

           丁六、小判、元禄、天削、利久、卵中。  ほお、けっこういろいろあるものだ。  えっ、いきなり、なんかのおまじないかって。  これは実は、割り箸の種類の名前。  よく、食べ物屋でお世話になっているけれど、こんなにいろいろあるんだね。  これに、使う材質の違いがある。  杉や檜のまさ目を使ったり、白樺や、アスペンと呼ばれる安い輸入材もある。  日本人の清潔感と実用性にあったこの割り箸の文化。  調べてみると、明治になって、機械式の製材機が普及してから広まったのだね。  

          「令和」とは、どんな割り箸? (役に立たないそば屋の話4)

          宮本武蔵はそばを食べたか? (役に立たないそば屋の話3)

          宮本武蔵は二刀流を生み出した、 江戸時代の初めの剣豪。 その生涯は吉川英治の書いた長編小説「宮本武蔵」で、 詳しく描かれている。 この小説は、過去に何度も映画やドラマになり、 広く知られている。 誰が主人公を演じるかによって、 印象が変わってしまったりするのだよね。 この小説の中で、 武蔵がそばを食べるシーンがある。 江戸の旅館で、そばを食べるのだが、 その時に、そばに集まってくるハエを、 箸でつまんで取り除いていたという。 えっ、動いているハエを! ちょうど、武蔵に文

          宮本武蔵はそばを食べたか? (役に立たないそば屋の話3)

          そば屋に「庵」の付く屋号が多いのは、なぜ。 (役に立たないそば屋の話2)

             名前を決めるのは、とかく苦労するもの。  だから、その世界で名を上げた人や、価値の定まった呼び名などから、  その功績にあやかるように、と願って付けることも多い。  この頃だったら、「翔平」と名付けられた男の子も多いことだろう。  私の時代には、人気の映画から「真知子」「小百合」と名付けられた女性も多かったなあ。(いつの時代の話だろう?)  そば屋の名前も同じ。  賑わっているそば屋と似たような屋号をつけて、その人気にあやかりたい、という気持ちが見える店がある。

          そば屋に「庵」の付く屋号が多いのは、なぜ。 (役に立たないそば屋の話2)