「令和」とは、どんな割り箸? (役に立たないそば屋の話4)
丁六、小判、元禄、天削、利久、卵中。
ほお、けっこういろいろあるものだ。
えっ、いきなり、なんかのおまじないかって。
これは実は、割り箸の種類の名前。
よく、食べ物屋でお世話になっているけれど、こんなにいろいろあるんだね。
これに、使う材質の違いがある。
杉や檜のまさ目を使ったり、白樺や、アスペンと呼ばれる安い輸入材もある。
日本人の清潔感と実用性にあったこの割り箸の文化。
調べてみると、明治になって、機械式の製材機が普及してから広まったのだね。
なんだ、以外に新しい存在なんだ。
あるグルメ評論家によると、最初に出される箸で、その店の格式が知れるのだそうだ。
輪島塗の箸置きに、真ん中に帯を巻いた卵中(らんちゅう)と言う箸があれば、
かなり高級なお店。
もっといいお店では、出される料理ごとに箸を替えてくれるらしい。
私は行ったことがありませんので、よく知りませんが。
割烹店や、高級な寿司屋に出てくるのが利久(りきゅう)。
これは、両側が細く削られている。
茶の湯の千利休が、おもてなしのため、わざわざ削ったものだという。
利休の「休」の字が店では嫌われ、利久の字が使われている。
備前焼の箸置きに、杉の天削(てんそげ)という、
箸の頭を斜めにカットしたものがでてくれば
デートにも、接待にも使えるそこそこのお店。
和紙の箸袋に、竹の元禄(げんろく)という、四隅を削った箸がでてくれば、
気の知れた仲間と行く、まずまずのお店。
アスペンという白っぽい元禄箸がでてくれば、
職場の仲間と気楽に寄っていくお店。
小判と言う、外側しか削っていない割り箸が、箸箱にどかんと積まれていれば、
実用本意の安いお店。
そう言われてみれば、店によって、 割り箸の種類や出し方が違う。
それで店の「格」が決まるの言うなら、そば屋の「格」なんてひどいものだ。
ひと昔前までは、そば屋で使う箸は、丁六(ちょうろく)という、
四隅の削っていないものだった。
せいぜい気取っても小判ぐらいだったようだ。
これにはしっかりと訳がある。
角のたった箸で食べれば、そばやうどんが滑らないのだ。
おまけに、長くて食べにくいような麺、特にうどんの場合など、
角のある箸で、挟むようにこすれば、簡単に、チョン、と切れるのだ。
だから、そば屋は、「元禄」のように角の削ってある割り箸を使わず、
丁六という角のある箸を使っているのだ。
なんてうんちくを、聞かされたことがあった。
単に、そば屋がケチを隠すための口実じゃないの。
まあ、今では、どこへ行っても「元禄」がでてくるけど。
だいぶ値段も下がったので、ケチなそば屋でも使えるようになったのか。
ケチな話といえば、
昭和の初めぐらいまでは、使った割り箸を集める業者さんがいたという。
そば屋に限らず、食べ物屋は、その業者さんのために、
使った割り箸を別にして取っておいたという。
そして、その売ったお金が、
店の女将さんの小遣いになったらしい。
わずかな金額でも、チリも積もれば、、、というところだろう。
使った割り箸は、なんと、薪の焚き付けに重宝されたのだとか。
エコな時代だったのだね。
エコといえば、十年ほど前には、
マイ箸のブームがあったね。
自分の箸を持参しよう。
飲食店で、使い捨ての割り箸を使わないようにしよう。
木材の資源を大切にしよう、という動き。
その頃には、私の店でも、マイ箸を持参するお客様もおられた。
あるお客様は、
パリの目抜き通りに本店のある、あのブランドのハンドバッグをご持参。
その中から、同じマークの箸入れと、箸をお出しになって、
そばを召し上がっていらした。
ここまでするとは、あのブランドも商売逞しい。
やがて、割り箸そのものが、
木材の切れ端を使って作られているエコなものだという認識が広がり、
その流れは、いつの間にか消えてしまったね。
ある仕出し屋さん、
お祝いの料理を、お屋敷にお届けした。
その時、配達の人が、 つい、いつものつもりで割り箸を置いてきてしまった。
すぐに電話があった。
「めでたい結納の席に、割り箸とはどういうことだ。」
こういう時には、最初から分かれている箸を使うものなんだって。
すぐに箸を替えにいったという話。
何気なく使っている割り箸だけれど、
それなりにこだわり、しきたりがあるのだね。
ところで、今一番使われている割り箸は
割った時、四隅の角が削られている「元禄」というもの。
さて、どうしてそんな古風な名前が付いたのだろう。
う〜ん、これを命名した人はすごい。
かなりの知識と、同じぐらいの皮肉心を持った人だ。
時は江戸の元禄時代。
財政難に陥った幕府は、苦肉の策として、
金の含有量を大幅に減らした小判を発行した。
つまり、小判二枚分の金で、三枚の小判を作っちゃったんだね。
これが元禄小判。
商人たちにはすこぶる不評を買った小判だった。
さて、割り箸を作る人。
今まであった、「小判」という割り箸は 外側の角だけを削ったもの。
さらに割筋に沿って溝を入れることで、割った時に四隅が削れているようにしたのだね。
つまり、
「小判」から木(金)を削って作ったもの。
だから「元禄」と呼ぶのだと言う。
これを命名した明治30年ごろの人は、すごい。
なるほどと感心することしきり。
ならば、いっそのこと、
もっと木を削ってみたらどうだろう。
合理化の進む現代には、
針金みたいに細い割り箸。
名を「令和」と呼ぶ、、、、、。
こういうのを、
「箸にもかからない話」というのかな。
とにかく、
お店に入ったら、箸にもご注目を。
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