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小説

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かいたものたち
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乾き

乾き

別れを惜しむ自分と直面し存外驚いた。
今まで一人で生きてきたものだから、人に執着する気持ちがあるとは思いもよらなんだ。

ただその気を悟られるのは癪だから、いつもと同じようにぶっきらぼうな返事をする。
いつだって屈託のない笑顔で真っ直ぐな言葉をその真っ直ぐな瞳で捉えて最短距離で届けてくるあなた。
いまでも目を合わせるのが難儀だ。すべてを見透かされているような気がして心が落ち着かない。

十分に隠し

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さようならという言葉に

さようならという言葉に

あなたにはもうすでにバレているかもしれない。私があなたに話しかけている時は、うまくいってない時だ。人は鬱屈している時の方が創造力が高まるという。売れっ子の小説家はどうか知らないが、私が書くということはそういうことだ。
 人生に飽き飽きし、斜に構えたままで、数十年。気づけば仕事のできない人間になっていた。根は真面目なのか知らないがそんな自分で開き直ることもできず、また、変わろうとする気力を持つことも

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透明なかし

透明なかし

 

「雪が降る魔法って知ってる?」
「知らない。」
「てるてる坊主を逆さにすると、雨が降るっていうじゃない?そのてるてる坊主の中に、金平糖を入れておけば、雪が降るんだって!」

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

家を出て5分と経たないうちに、背中からじわっと汗が出てくるのを感じる。自転車のペダルを漕ぐたびに、汗の出るスピードも加速していくように感じた。
両脇に大木が並ぶ道を駆ける。セミが地を揺るがすくらい

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カタミ・ミカタ

「いつだって味方だからね。」
幼い頃からずっとそういってくれた母が亡くなった。享年42歳。
幾分前から引きずっていた風邪が肺炎に悪化してそのまま入院先の病院で亡くなった。桜が散り始めていた春の終わりのことだった。
まさか自分の親のために初めて喪服を着るなんて思っていなかった。側で泣いているのが、母親ではなくて、おばあちゃんなのも違和感を感じていた。てっきり子は親の後に逝くものだと、それが当たり前だ

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白光

 

僕は3月の終わり、桜が散るか散らないか日程を定めている季節に僕は建物から体を放り投げた。理由は単純だった。生きるのが辛いから。

原因はわからない。仕事かも知れないし、家庭だったのかも知れない。仕事の昼休み、食堂にて味のしないご飯を食べていると、次第にシャツを小さな水滴が濡らしていることに気がついた。それは涙だった。周囲の人も驚いていたが、自身が一番驚いた。なんで泣いているのかわからなかった

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短編。

思いつきで書いた小説。
書きたいラストではなくて気力がなくなる前に書き終わらせようとしてなんとも中途半端。それでもやっぱり初めて成し遂げたもの。嬉しさはある。よければ読んでやってください。

九月二五日金曜日。四時間目。気づけば夏は過ぎ去って制服だけでは肌寒く感じる頃、私は興味のない植物の構造について耳を傾けるよりも外の色づき始めた木を観る方が楽しかった。
風が木々を揺らす。もうそろそろ秋がくる。

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叙述トリック的ななにか。

#短編
思いつきで書き始めた為にオチがわかりづらいとは思う。気軽に読んでみてください。
それにしても文才というのはどのように養うのか。

「なんで、原稿を渡すたびに赤字が増えるのよ。どうせなら一気に訂正してくれないかな。」
平日の真っ昼間からボサボサの頭をかきながら、PCに向かい文句を垂れている女性は佐々木千陽だ。彼女は3ヶ月前に投稿した小説で見事に啓栄社のグランプリに輝き、はれて小説家になった

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無題。

無題。

私が幼稚園に通っていた頃に、父は姿を消した。その日迎えにきた母の顔がいつもと違うことに子供ながら気がついていた。。
「お父さんがね、しばらく帰ってこないんだって。私は絶対あなたの側を離れないからね。」
家ついて、私が靴を脱いでるところを母が抱き寄せてそう言った。 その時の表情は20年近く経った今でも鮮明な写真として脳裏に焼き付いている。私の好きだった母のえくぼはこの日を境に消え去ってしまった。

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瞬き

しばたく度に眼に映る世界が変わる。古ぼけた投影機のようにコマ送りで景色が流れていく。
お腹の大きな女性の優しい声。お腹を撫でながら微笑み、優しい声で語りかける。何を言っているのかは聴き取れなかったが妙に心地よかった。
次に聴こえたのは産声だった。皺くちゃで瞳も開けられない小さな赤ちゃんがタオルに包まれながら元気よく泣いていた。涙ぐむ女性と側で喜ぶスーツを着た真面目そうな男性。2人の子供なのだろう

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