しばたく度に眼に映る世界が変わる。古ぼけた投影機のようにコマ送りで景色が流れていく。
お腹の大きな女性の優しい声。お腹を撫でながら微笑み、優しい声で語りかける。何を言っているのかは聴き取れなかったが妙に心地よかった。
次に聴こえたのは産声だった。皺くちゃで瞳も開けられない小さな赤ちゃんがタオルに包まれながら元気よく泣いていた。涙ぐむ女性と側で喜ぶスーツを着た真面目そうな男性。2人の子供なのだろう。温かい雰囲気がその場を包み込んでいた。
小さい手で持つ赤いボールをぎこちない動作でこちらへと向けて投げる。ボールが手を離れた瞬間、切り替わる。
今まで俯瞰的に見ていた景色が主観へと変わった。
見覚えのある教室で私は席へと着いていた。隣には仲がよかったミキちゃんが座っている。今となっては連絡を取ってはいない。こちらに何か呟いてからミキちゃんがニコッと笑う。笑った時に出来るえくぼが可愛いかった。
次の景色には見覚えがあった。中学校から家への帰路だった。信号のない通りを私は渡っていた。
パリーンっとガラスが割れるように目の前の風景が再び変わる。今までと違うのは肌に刺さる冬の寒さと耳をつんざくようなクラクションの音。目が眩むような白い光。その先に見えるのはハンドルを握る青ざめた運転手の顔だった。
次の瞬間に冷たい金属の感触が肌を通して伝わってきた。目を瞬く。
私は知っていた。今見てきた景色は現実ではないと。夢とも違う。あれは記憶にない思い出だ。
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