叙述トリック的ななにか。
#短編 。
思いつきで書き始めた為にオチがわかりづらいとは思う。気軽に読んでみてください。
それにしても文才というのはどのように養うのか。
「なんで、原稿を渡すたびに赤字が増えるのよ。どうせなら一気に訂正してくれないかな。」
平日の真っ昼間からボサボサの頭をかきながら、PCに向かい文句を垂れている女性は佐々木千陽だ。彼女は3ヶ月前に投稿した小説で見事に啓栄社のグランプリに輝き、はれて小説家になったのだ。以前から憧れていたとはいえ、どうやら小説家の生活は彼女が思っていたよりも過酷だったようだ。
「だいたい、〆切間近で急かしてくる割には修正作業が遅すぎない?こっちも急いでるんだから、そっちだって急いでよ!」
また独りで喚き散らしてる。すっぴんの彼女の顔には大きなクマがあり、十分な睡眠時間が取れていないことが伺える。足下に散らばるエナジードリンクの空き缶たち。もはや、カフェインなど気休めにしかならない。ついにPCの前に突っ伏してしまった。〆切まであと2日。現在彼女は処女作である「晴れ、のちに」が話題作として持ち上げられているうちに次の作品を発表してしまおうと編集者と話し合い、取り組んでいるところだ。
寝言かどうかも区別できない小さな声でひとり呟く。
「そんな急に、アイデアなんて思い浮かぶか」
バッテリーが切れたオモチャのように彼女は動かなくなった。口からは文句の代わりに静かな呼吸音のみが漏れている。
下校中の小学生達の喧騒に起こされた彼女は勢いよく顔を上げた。窓の外を見る。ついさっきまで真上に位置していたはずの太陽が、もうすでに沈みかけていた。彼女の顔が焦りにみるみると包まれていった。恐らく彼女、千陽はまた一睡もすることなく次の日を迎えるのだろう。
朝方、送られてきた原稿を訂正した後から、一向に連絡がこない。きっと、僕が修正したところに腹をたて喚き散らした後に限界がきて寝てしまっているんだろう。担当についてからまだ4ヶ月だが、それなりに相手がどういう人かわかってきている。〆切は迫っているが、なんせこれがプロとしての初仕事なのだから自分のペースを守らせてあげよう。その為に〆切日を本人には4日間短く知らせてある。もし間に合わなかった時には打ち明けてしまおう。にしてもよほど僕のことが嫌いなのか、ところどころに編集者に対する愚痴を織り込んでいる。確かに僕もできれば手直す回数は減らしていきたいのだが、パズルのピースみたいなもので、一つ何かを変えてしまえば、そのしわ寄せが必ず現れてしまう。こればっかりは僕の実力不足もあるが、現状致し方ない。これは僕が耐えていくしかないようだ。正直のところ彼女の書く文章は決して突出しているような特徴や文才は感じられない。しかし、頭の中でくっきりとした映像で見ることができるのだ。若者の本離れが日本全国で嘆かれている中、読みやすく面白い本というのはそういった読書離れを引き止める為の要因になり得ると思う。個人的には、彼女の担当者になれてとても嬉しく思う。
「高本さん、どうかされましたか?」
背後からいきなり声をかけられ身体がビクッと震えた。振り返るとそこには後輩の田端が居た。
「なんだ、田端か。いや、特になにもないよ。少し考えことをしていただけだ。」
「そうですか。PCの画面見ながら微動だにしてなかったので声かけちゃいました。そうだ!よければ…」
田端が何か言おうとしたところで、修正した原稿の返事がきた。
小説家 千陽は 自分が五時間ほど寝ていたことに気づいた後はすぐに動き始めた。改めて修正された原稿を見通し、赤字の中からまず納得できるところだけ先に付け加えていく。もちろん、彼女の口からは常に文句が漏れている。
「"主人公は赤というより黄色の方が似合うと思います"なんて余計のお世話。私は赤いスカート履いているイメージなの!」
しかし、手は止まらない。修正された場所に手直しを加えたあとは、"あのね…" の続きから一言も喋れない主人公に言葉を与えていく。どうやら睡眠不足が筆を重くしていたようだ。タイピングする音がだんだんと勢いを増していく。彼女の口からはもう文句の一つも聞こえない。完全に集中していた。
「こればっかりはまた難しい設定にしたなぁ。」
あらすじを聞いた時に少し戸惑った。これはわかりにくくないか?読者に受けるのだろうか?頭の中に様々な疑問が生まれてくる。しかし、前に座っている彼女の顔を見る限り本気のようだ。しかもどうやらこの構成をだいぶ前から考えていたようだ。
「絶対、プロになったらこの構成で書きたいって思ってたんです。アマチュアの時も何作か書いたりはしてたんですけど、この話だけはしっかりプロがどういう生活を送っているのか経験してからでないと書けないなって思っていたので。」
僕の反応を見るより先に彼女は続けた。
「私は頭良くないんで、普通のミステリーとか書けないんですよね。それでもどうにかして読者に"やられた''って思わせたいんです。で、この構成なら私でも彼らをびっくりさせれるかなって。」
「発想はとても面白いんだよ。最後には”やられた”ってなるかもしれない。問題はその最後なんだ。いつをもって終わりにするのか。ネタバラシはどのように行うのか。そこが肝になってくるよね。」
「分かってますよ…!そんなこと。」
彼女は勢いを失ってしまった。
僕は一息おいてから
「わかりました。やってみましょう。発想はとても面白いしうまくいけばウケるかもしれない。ただしちょっと厳しいよ。正直な話。」
彼女はこちらをみながら首を縦に何度も振った。よほどやりたかったのだろう。編集者として彼女の肩を押すことにしたのだ。
エンターキーを押す音を最後に先ほどまで鳴っていたタイプ音が一切しなくなった。一瞬の静寂が訪れる。 千陽は顔をくしゃくしゃにしながら伸びをしている。どうやら書き終わったみたいだ。時刻は現在2時52分。晩御飯も忘れ執筆作業に取り組んでいたようだ。伸びをした後は机に再び突っ伏して動かなくなった。彼女はそういう人間である。小さい頃からそうだった。集中力を一点に注ぐ。その為、定期テストではそこそこ点を取れていたのだが、実力テストや模試となると成績は芳しくなかった。だか一点集中型の彼女はある意味小説家に向いているのかもしれない。
送られてきた原稿を読み修正を入れようとするが誤字脱字もついに無くなった。辻褄が合わない箇所も見当たらない。ついに終わったようだ。〆切も守ってもらえたし何よりだ。彼女は必ず大きな仕事をする。今ではないかもしれないがいずれ。
その為に手助けできることが光栄である。初めて編集者の立場に立って小説家とのやりとりをしてみたが、千陽は私にそっくりに書いてしまった。私も執筆中はよく担当者の愚痴を漏らす。修正箇所の愚痴を漏らす。果たして私の担当者はこの原稿を読み、高本のように見守ってくれるのだろうか。
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