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2024年7月の記事一覧
4 20 日記詩集 おまけトーク(気持ちが一番大事)
⒒
鳴り響く電話の着信音で彼女の手はとまった
キャンバスにやった手で電話を取る
電話の声がテナントの一部を貸し出す旨を伝えるが
彼女は上手く状況が飲み込めなかった
要領の得ない彼女に電話主が何度か確認してようやく思い出す
忘れていた 随分前に依頼したものだった
電話の向こうでは彼女が件の人物だと一致して安堵したのか
一息に時間や場所の詳細を告げる
反射的にメモを取りながら
本当は断ろうとし
4 19返答詩集 日記詩集 おまけトーク(理不尽なことに見えても)
⒑
完成した絵の前で彼女は立ち尽くしていた
ただの後ろ姿でしかなく
風景の一つであり
一つの場面でしかなく
探していたものは見つからなかったのだった
届かない…
もう限界なのか…
描き続けるのは
果てに何かを見たかったからだった
出会えないなら
一体何の意味があるのか
破こうとして手をやった
こんな絵しか描けないなら 絵を描く意味がもう分からなかった
自身への深い失望であるのと同時に
4 18 詩集 返答詩集 日記詩集 おまけトーク(自分との仕切り直し)
9
彼女は後ろ姿の像を絵にしてみようと思う
この世界に色彩を与えられるなら
描きたい何かを見つけられるかもしれない
像を見れば像そのものを描こうとしてしまう
描きたいのはそういうことではなかった
今にも髪が風になびき 服がはためき 手足が動き出しそうな
色を放ち 光と影に彩られた 彼女が心に描いた風景だった
見て取った感情を思い描いてみる
哀しみ…寂しさ…嘆き…決意…
毎日異なる光の陰陽
4 17 詩集 返答詩集 日記詩集 おまけトーク(スイッチは言って掃除を猛烈にした)
8
彼女は今日もその後ろ姿を見つめていた
背中が何を物語っているのか耳をすませるように
首を振る 都合よく分かるわけがない…
朝陽が差し込んで 新しい一日が始まろうとしていた
外に目を向ければ描きたいものはいくらでも目に飛び込んでくる
心を射貫き 足を止め 魅入らせるものはそう多くない
待っていれば訪れてくれるものではないが
待ち続けなければ 決して描けない景色がどこかにあるはずだった
4 16 詩集 返答詩集 日記詩集 おまけトーク(無理にラックを買わなくてもこれでいいんじゃないか説)
7
陽が沈んでゆく
星が瞬きだす
雲が棚引き
風は衣のように
閉ざされた闇を射抜くように
月明かりが照らす 光を受けて像の後ろ姿は表れる
月が舞うキャンバスから手を下ろして
彼女は一息つく
後ろ姿の像を見やる
見れば見るほど不思議だった
引きつけられる…
店主から譲り受けた像の作家は分からなかった
誰も知らない像は
世界から置き去りにされたかのようで
一体どんな作り方をしたらこんなふ
4 15 詩集 返答詩集 日記詩集 おまけトーク(復活の焼肉デー)
6
彼女の目はとある像に吸い寄せられる―
その像はただの後ろ姿でしかないが
何という後ろ姿なのか
言葉にならない何かを感じて
彼女は食い入るように魅入っていた
絵を描き残さなければと衝動と理性の狭間で揺られ
どうか残したいと願う時の感覚にも似ていた
彼女はこの像について店主に聞くが
店主も詳しいことは分かっていなかった
買わせてください―頭を下げる彼女に困って店主は言う
「これは売り物
4 14 詩集 返答詩集 日記詩集 おまけトーク(体調不良ショック)
5
もう陽が沈んでしまう
頭上の雲はどこかへ行ってしまった
なんてこの世界は儚いのだろう
彼女はもう一度空を見上げる
考えるほど 自分が特殊で異質なように思えて
生きていく場所を見失いそうになる
考えを振り払うように早足になった
気づけば店の前まで来ていた
切り換えるように深呼吸して扉を開ける
柔らかく挨拶をする店主に
彼女も自然と笑顔がこぼれた
彼女は包みを解く
先ほど空を写し取った
4 13 詩集 返答詩集 日記詩集 おまけトーク(メイドインヘブン)
4
店から出た彼女は溜息を吐いて 空を見上げた
どこまでも蒼く美しく 雲の配置さえも完璧だった
後ろを歩いていた人とぶつかる
慌てて端に退く 思わず足を止めてしまっていた
足を止め 心で感じ
魅入ることでさえも 疎まれるのか
空はどこまでも広いのに
この世界はどこまでも狭い
雑踏の片隅で キャンバスを立てかけ
彼女は絵を描き始めていた
人の目も気にしない 外の騒音も聞こえない
雲の形も
4 12 詩集 返答詩集 日記詩集 おまけトーク(興味が人間関係を広げていく)
3
触れられなくても
続けていれば次の歩みとなっていく
伝えられなかった思いは
願いに繋がっていく
届かなかった歩みを繰り返し
いくつもの出逢いと別れを経て
思いは絵という形になっていった
一見しただけで気に入り店に置く人
置いたものを客が気に入り興味を持つ人
季節ごとの絵や店の雰囲気に合うものを
頼まれることがあれば
部屋に飾りたいからと
個人的な注文を受けることも増えてきた
励ま
4 10 詩集 返答詩集 日記詩集 おまけトーク(思考の3タイプ)
―第二章―
画家が心に描く景色
1
彼女は売れない画家
心に見た風景に触れるために筆を握り
想いを色に託して散りばめる
崩れ落ちる波 空に波打つ雲
雲から降り注ぐ滝 涙に暮れる雨
昇る瞬間の太陽 月夜の静けさに舞う桜
人の笑顔 手に触れた温もり
描くだけなら写真を写し取るのと変わらない
見た物をただ描きたいわけではなかった
見えないものを絵に加えたいわけでもなかった
心に感じた躍動
美
4 9 詩集 返答詩集 日記詩集 おまけトーク(人生に働く力仮説)
9
鼓動を繰り返すだけで 失われていく時をすくい取るかのように
生と死の鬩ぎ合いにたゆたう海のように 彼は生きた
出会いを無くさないように
胸に抱いた想いを守るために
この世界に ただ残すために
彼は祈りながら 汗を滴らせ
血を吐きながらも 手を動かし続けた
命を燃やすように 今しか見えない暗闇の中で
灯火を松明として 歩み続け
彼が「凛」と題した作品は
紛れもない彼女の後ろ姿だった
4 8 詩集 返答詩集 日記詩集 おまけトーク(レモンの日)
8
作品を買った彼女は誰もそうするように 大事に胸に守り
育ててきた花のように 愛しんで両腕に抱く
彼女はぽつりと口にする
友達もいない 家族もいない
私は誰の心に残るのだろうか
彼は強く拳を握りしめて頷いた
「きっと残る」という言葉は
慰めではなく 決意だった
彼女は寂しそうに微笑んで
深々と頭を下げ 背中を向けた
もう二度と会うことはないだろう
彼は遠ざかる彼女を目に焼きつける
最
4 7 詩集 返答詩集 日記詩集 おまけトーク(腐らないでいこぜ)
7
彼は宛もなく彷徨う旅人
街を渡り歩く 移ろい続ける風
陽の移ろいと景色が 心を留めた場所に
風呂敷を広げ 作品を並べ佇む
時間と場所の何が 足を止めさせたのか
心に引っかかったものを探すために
ここは広く 人の足音はリズミカルで疎らだった
話し声 通り過ぎる車 鳥の囀り 木の囁き 風の音
全てが 広がる空に 飛び立ち 吸い込まれ 消えてしまうようで
太陽の光に照らされ 通り過ぎた人の