4 13 詩集 返答詩集 日記詩集 おまけトーク(メイドインヘブン)
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店から出た彼女は溜息を吐いて 空を見上げた
どこまでも蒼く美しく 雲の配置さえも完璧だった
後ろを歩いていた人とぶつかる
慌てて端に退く 思わず足を止めてしまっていた
足を止め 心で感じ
魅入ることでさえも 疎まれるのか
空はどこまでも広いのに
この世界はどこまでも狭い
雑踏の片隅で キャンバスを立てかけ
彼女は絵を描き始めていた
人の目も気にしない 外の騒音も聞こえない
雲の形も 空の青さも やがて移ろい 違うものになってしまう
この目に映る瞬間を ただ描きたくて
キャンバスに写し取るように
あまりに速すぎる空に 追いつきたくて
必死に手を動かす 目に焼きつけながら
筆がはしり 腕がしなり
突き動かされるように 絵を一枚完成させた
布に包んで 持ち運ぶ 足は帰路ではなく
とあるお店に向かおうとしていた
懇意にしてくれている人から空の絵を依頼されていたことを思い出す
空は赤い光に包まれて 淡く消えてしまいそうだった
「とあるお店にて」
ⅷ・辿る道の果てに
歩み続けてきたから 出会える喜びと引き換えに
科せられた痛みがあるとしたら
痛みを抱えながら
失い続けたものは何だっただろう
今まで何をやってきたのだろう
努力が無意味に思える
伸ばした手は虚空を掴むばかり
何も分からなくなる
意志を見失えば命は彷徨うだけ
生きていくためには 歩み続けることしかできない
歩み続けるために
望んだ出会いのはずだったというのに
なりたい自分は何だろうか
問いかけから始まった道だった
探し求めて 彷徨って
あれでもない これでもないと 選び取りながら
他人の価値観と 自分の信念の狭間で 揺れながら
道の途中で出会ったものを大事に胸にしまって
いつまでも覚えていたくて
道の途中で居場所を求め 役割を探し
描いた夢に想いを馳せ 少しでも近づきたくて歩んだ道のはずだった
生き方や働き方 自分の在り方を目指したのではなかったのか
心に迫り来る過去が 胸を掴む
心が立ち止まる瞬間 失った物を思い出す
あの人の姿は 確かにあの日 思い描いていた理想だった
自分であることを見つけている人がいる
出会えた場所にもう一度行きたいと思う もう一度会いたいと思う
何度でも触れて
確かめたくなる
空の彼方に煌めく 星の光のような
ここに生きていると 感じられる瞬間に
出会いたくて 旅をしている
「子ども時代」
風の囁きと木の息吹
緑は続いて学校を取り囲む
赤い屋根 木造の校舎
鉛筆が走る音 机と椅子が鳴らす拍子
黒板に刻まれる旋律 子どもの声が幾重に重なる
賑やかな時間は 日常の中に降り注いだ日溜まりのよう
明日への煌めきは
過ぎた昨日さえも眩く照らし
未来への可能性に満ちている
山へと響くように
あの頃にしかない夢を乗せて
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