4 18 詩集 返答詩集 日記詩集 おまけトーク(自分との仕切り直し)
9
彼女は後ろ姿の像を絵にしてみようと思う
この世界に色彩を与えられるなら
描きたい何かを見つけられるかもしれない
像を見れば像そのものを描こうとしてしまう
描きたいのはそういうことではなかった
今にも髪が風になびき 服がはためき 手足が動き出しそうな
色を放ち 光と影に彩られた 彼女が心に描いた風景だった
見て取った感情を思い描いてみる
哀しみ…寂しさ…嘆き…決意…
毎日異なる光の陰陽が異なる印象を抱かせる
まるで流れ星を待つかのように
毎日のように何度も描き 幾度となく書き直した
靴 服 髪の艶 周りの風景
分からないことはいくらでもあった
描き続けて 時には食事も睡眠も忘れて
何かを見るために 彼女は作画に没頭した
この像を初めて見た時
心を奪われたように
「帰る場所」
どうして一日は
こんなにも早く巡ってしまうのだろう
目が覚めて 陽が輝いて
走り回って 風が揺れて
無我夢中で駆け抜けているうちに もう帰る時間
何度と無く繰り返して 陽が何度でも堕ちて夜が瞬く
どんな大人になるのかな
生きるってどういうことなのだろう
分からないなりにそんな事を考えた
夜空の帰り道
こんなにも走り抜けたのはきっと
明日を信じて疑わなかったから
子どもの頃に既に出会っている
思い出という故郷
何度でも巡る今日という日
遠く 淡く 過ぎていく昨日という日々
あとどれくらい残されているだろう
明日という時間
帰る家が 帰りを待っている
この旅の彼方に
ただいまと言える場所が
ずっと待っている
「理由なき苦しみ」
理由がないからこそ
救いがない
何を失ったのでも
誰かを失ったわけでもないというのに
理由が見つからずに混乱し呆然としてしまう
平穏な日常に突如現れた深淵の闇
理由なき苦しみは心の中に
台風のように渦を巻く
この思いを誰に言っていいのか分からない
一人で抱えることしかできない
受け入れてくれる誰かは果たしているのだろうか
人と人との間で揺られながら
自分で自分を守ることさえ 分からなくなり
自らの心を見失い 自分自身に失望していく
傷みが癒えることなく胸の内を彷徨う
苦しみとは痛みにあるのではなく
誰にも言えないことによって
癒えないことにある
自らに寄り添い 癒しとなる言葉が
世界にないからこそ
他でもない自分自身のために
切実に求める言葉を紡ぐ
一瞬の想いが揺らめき
時を編んで言の葉を紡ぎ
表象が舞い降りる
自分のために生み出された瞬間
人は確かに 自らの手で自身を救っている
「命の対話」
涙が流れるなら
悲しみをすくいとる花が咲く
微笑むように
手を 伸べるように
寂しさに声を零すなら
声を聴く風が吹く
優しく
耳を澄ませるように
行き先を失ってしまっても
一歩先を照らす光が射す
強く 時には弱く
どちらの歩みも 許すように
歩むことを止めて
大事なものを落としてしまっても
木がそこに立って待っていてくれる
静かに 何も言わないで
自分にだけ 分かるように
どうしようもなく傷ついて
心を見失っても 月は静かに光り続ける
この世界はすべて自分のために
暖かく広がる空 大地の温もり 自然が脈打つ
この星と生きている 命が鼓動する
詩人です。出版もしております。マガジンで書籍のご案内もいたしております。頂いたサポートは出版の費用にさせていただきます。