4 15 詩集 返答詩集 日記詩集  おまけトーク(復活の焼肉デー)


彼女の目はとある像に吸い寄せられる―

その像はただの後ろ姿でしかないが
何という後ろ姿なのか

言葉にならない何かを感じて
彼女は食い入るように魅入っていた

絵を描き残さなければと衝動と理性の狭間で揺られ
どうか残したいと願う時の感覚にも似ていた

彼女はこの像について店主に聞くが
店主も詳しいことは分かっていなかった

買わせてください―頭を下げる彼女に困って店主は言う
「これは売り物じゃないんだが…」

「貸して頂くだけでも…」
彼女は食い下がる

店主は頑として引き下がらない彼女にふっと表情を軟らかくした
笑ったように遠い昔を思い出したのだった

絵を置いて欲しいと願い出る彼女に
この店主も最初は首を縦に振らなかった
彼女は引き下がらずに小さな絵を差し出し
気に入らなければ捨てても構わないと言ったのだった

彼女の記憶に無造作に捨てられた絵がよぎったのだった
自然と言葉から捨ててもいいなんて言葉が出てしまった

店主は胸の奥で何かが瞬いたのを感じた
店を始めて必死だった頃に胸に抱いていた何かだった

店主はなぜ彼女の絵を置いたのかを思い出す
彼女の姿は 過去の自分だった

「三日月」

すれ違う
手を繋ぐ子どもと親の笑い声

零れる明かり
聞こえる声に垣間見えるだんらん

風に乗って囁くような

ドアの開く音
ただいまという声と
閉まる扉の音

悲しみも 喜びも 微笑みも 涙も
誰にも知られることのない秘密さえも
全てが帰って 包み込んで また明日

吹く風に託して 光が舞う
見上げれば 夜を照らす三日月

月でさえも闇に帰る
孤独に灯して眠る

 「歌」

街通で見かけた旅人は
言の葉を歌にして紡ぐ吟遊詩人

星の見えない闇の下
心に輝く一つの星を見つけて
夢を歌う

出会いと別れを繰り返す旅の途中
受け取った宝物 思い出と温もり
心にしまった全てを 歌詞にして

星の見えない闇夜に歌う

時に絶望し 闇の深淵を見下ろして
見上げた空の果てに 見えない星を探して
今日という日に 新しい旅が始まる

この胸に届いた時
何か差し出したくなって
値札のない歌声に ギターケースに お金を投げ込んだ

聴き入って 目を瞑って
思わず動く体 鳴らす拍手

出会いに思い出が舞い降りる
歌に 詩に 言の葉に 風景に

守りたかったもの 進むために失ったもの
出会った景色に塗り替えてしまった過去の風景

出会って見つけたものと
胸の中に大事にしまっていたものが重なる

その心が大事に持っているから
守り続けていてくれたから
ようやく出会えたのかもしれない

人の目に留まり
誰かの心に伝わり

今もこの胸の中で
生き続けている

「故郷―夢の彼方―」

6「大切なもの」

心の中では
誰にも見えない涙が流れている

言葉なんていらない
流れる雫を両腕で抱きしめている

すくい取れなくても
癒えない傷を抱きしめている

理解しようともしない言葉なんて知らない
そんな言葉はこの世界にいらない

雲の隙間から零れ落ちる
涙のような 光のような 喜びを胸に

未来なんて知らない
過去の選択なんてどうでもいい

独りよがりでも 自分勝手でも
何より大切なのは 自分の心だから

自分でなければ
この両腕で心を護ることはできない

自分のために生きるということ
大切なものは既にここにあるということ

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