4 17 詩集 返答詩集 日記詩集 おまけトーク(スイッチは言って掃除を猛烈にした)
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彼女は今日もその後ろ姿を見つめていた
背中が何を物語っているのか耳をすませるように
首を振る 都合よく分かるわけがない…
朝陽が差し込んで 新しい一日が始まろうとしていた
外に目を向ければ描きたいものはいくらでも目に飛び込んでくる
心を射貫き 足を止め 魅入らせるものはそう多くない
待っていれば訪れてくれるものではないが
待ち続けなければ 決して描けない景色がどこかにあるはずだった
街を出歩いている時
彼女はふと居場所が消えていくように感じる時がある
自分は彷徨い人のようだ
何を求めているかも分からず
見つかるかも分からないものを求めている
出会えた景色を描くと彼女は思う
絵を描くことが
自分をこの世界に繋ぎ止めているかのようだ
ある陽を描いている途中で手を休めた折に
いつものように作品を見やる
後ろ姿を夕陽が淡く照らしていた
どうしてこんなにも寂しげで
孤独な背中なのだろう…
鼓動が一際強く打つ
彼女は心臓を捕まれた
思わず筆が手から落ちた
涙の滴のように 床に染みをつくる
まるで自分の背中だ
去っていく後ろ姿は 誰かを待ち続けていた
彼女は静かに泣いた 闇夜の月のように
夜が明けるのを待つかのように 泣き続けた
「トンネルの向こう」
日射しを遮る暗闇の通路を抜けて
蝉の声が木々の間を埋め尽くし
石段の向こうに川と田んぼ 山が広がる
蝉の声に乗じてトンボが闊歩して
川のせせらぎで拍子を取るように
石の数珠繋ぎの橋をぽんぽん渡る
手を合わせる祈り人 ここにも佇む地蔵たち
並んで立って 遠くの子ども達に微笑みかけるよう
すぐ傍の稲穂がぐんと揺れる
電車が通り過ぎ 遠くに木霊する
車輪の歌とカランカランと鳴り響く踏切の声
向かいには駅舎が旅人の終着と出発を見守っている
切符は車掌により切られて手渡される
お気をつけて―旅路の無事を願うかのように
旅人は返された切符を大切そうにしまう
いってらっしゃい―たった一言で
想いが交わされるように 見送って
地平を離れれば海を臨む
夕暮れになれば緑の棚田は青の海原に溶けて混ざるかのよう
舟は役目を終えて安らぐように 波が労るように揺れる
「なぜ人は孤独になるのか」
誰かの要求に応えることで 自分の中の願いを蔑(ないがし)ろにして
心の内の葛藤をなかったことにしていくとしたら
自分の感じることが分からなくなっていく 信じられなくなる
誰かが違うと言えば従ってしまう
自分の心を見失ってしまう
自分はここにいる意味があるのだろうか
疑問が胸の内を渦巻く
独りではないという励ましだけでは
人は救われない
口を開き 胸の内を語り
受け止めてもらう 誰かを必要としている
共感によって人は命の温もりに触れて
心を温めなおすのだから
「故郷―夢の彼方―」
9「夢の彼方」
消せない過去が
時を超えて今に押し寄せる
過去の 傷だらけの想いは
心の中で 今を彷徨っている
いつか出逢うために
消えることなく心を廻っている願いに
散った想いの欠片を拾い集めて
未来へと踏み出せる一歩は 今だから願えるもの
時と空を経て 姿を変えて
今へと繋いだ 闇夜を覆う空の星たち
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