読書 | 翻訳をジェンダーする
古川弘子(著)「翻訳をジェンダーする」(ちくまプリマー新書)を読みました。
この記事では、私がこの本の内容そのものよりも、私がこの本を読んで考えたことを中心に書きます。
「翻訳をジェンダーする」という本では、主に英語の文学作品や文献がどのように訳されてきたのかを、ジェンダーに注目して分析しています。
日本語は、英語に比べると「文末詞」(役割語)が発達していますね。
たとえば、英語で「今日は暖かい」というなら、発言者が男性であるか、女性であるかを問わず「It's warm today.」と表現します。
日本語でも「今日は暖かい」という性差を感じさせない言い方はありますが、「今日は暖かいぜ!」と言えば男性っぽい感じがしますし、「今日は暖かいわ」と言えば女性っぽい感じになります。
「ぜ!」や「わ」のような言葉を文末詞(役割語)と言います。
ところで、少し前に、安西徹雄(著)「英語の発想」について書きました。
安西先生は「英語は名詞中心の構文で、日本語は動詞中心の構文である」という趣旨のことを述べていますが、「文末詞」のことも考慮すると納得することができます。
一般的に英語では、主語を必要としますが、日本語では必ずしも主語を必要としません。というのは、「暖かいぜ!」とか「暖かいわ」と言えば、「彼が」とか「彼女は」という主語がなくても、発言者が誰なのか、「動詞部分」から分かることが多いからです。
ある文章を日本語から英語に翻訳するときには、「He said,」「She said,」というような言葉を付け加える必要があります。そのまま訳すと、誰が言っているのか不明確になる場合があるからです。
とくに「源氏物語」のような古典では、そもそも女性は名前すら与えられていないときもありますから、日本語原文にはない「主語」を補うことが欠かせませんね。
日本語では、別に女性であっても「~ぜ!」や「~わ」を使ってもいいわけですし、必ずしも文末詞が使われるわけではありません。
けれども、「~かしら」と読めば、私は女性を想起します。日常生活の中で「~かしら」を使う女性にはあまりお目にかかることはありませんけどね。しかしながら、文末詞を使って書けば、いちいち「彼女は~と言った」のような言葉を使う必要がなくなります。小説を書くときには、文末詞を使ってみるとよいかもしれません。実際にふだん使われているかどうかに関わらず、テクニックとして使えそうです。
英語では、主語が男性であっても女性であっても、それによって動詞の活用が左右されることはありません。動詞を決めるのは、「人称」であって性別ではありません。「He」が主語でも「She」が主語でも動詞の形は同じ。
ところがロシア語では、次のようになります(Geminiに露訳させました)。
現在形では、
彼は学校に行きます。
Он идет в школу.
彼女は学校に行きます。
Она идет в школу.
となり、動詞部分は「彼」が主語でも、「彼女」が主語でも同じですが、
過去形では、
彼は学校に行きました。
Он пошел в школу.
彼女は学校に行きました。
Она пошла в школу.
のようになります。
ロシア語では、過去形の場合、
「彼」(он)が主語なら「пошел」
「彼女」(она)が主語なら「пошла」というように、異なる動詞の形をとることが「文法的に」強いられます。
この記事は頭に思い浮かんだことをそのまま書いたため、まとまりがありません。
言いたかったことは、次のことです。
①実際の男性や女性がどのように話しているかに関わらず、小説翻訳には「ジェンダー」の視点が隠れていること。
②小説を自分で書くときに、日本語の「文末詞」を使うと、書きやすくなるのではないかということ。
③日本語の文末詞は、日本語の文法上の要請に基づくものではないが、ロシア語のように文法的に性差を表すことを強いられる言語があるということ。
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