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『「いいね!」戦争』を読む(10)ロシアの「荒らし工場」体験記

▼ウェブ戦略ではロシアが一歩先を行っている現状が『「いいね!」戦争』に書かれていた。キーワードは「4つのD」。

▼相変わらず、アマゾンのカスタマーレビューは0件のまま。2019年7月4日現在。

▼具体的には「荒らし(トロール)工場」というものをたくさんつくる。

プーチンを絶賛する青年運動組織「ナーシ」や、政府が焚(た)きつけた企業十数社が母体になり、デタラメをネット世界に蔓延させる、圧倒的な物量作戦だ。

その手法を「ソックパペット(靴下人形)」という。〈複数の別人になりすまして仕事に取りかかる〉(179頁)。

ロシアの哲学専攻の学生や、何百人もの若者が雇われている。

〈仕事内容は、会話を乗っ取って嘘を広めるべく1日に何百件もソーシャルメディアに書き込みすることで、すべてロシア政府のためだ。(中略)(ある学生は)1カ月で1500ドル相当を稼いだ(「フェイスブック席」で他国の閲覧者を標的に仕事をしている場合は、国内対象の場合の2倍の報酬を受け取っていた)。「本当にカネのためだけにあの仕事を続けた」「と学生は言った。「あそこで働いている間にマツダシダックスを買ったんだ」〉(179-180頁)

▼この「ソックパペット」の戦術について、シンガー&ブルックス両氏は3つの形態を指摘している。

一つ、「信頼されるグループのまとめ役を装う」

二つ、「信頼できる情報源を装う」

三つ、「一見信頼できそうな人物になりすます」

この「ソックパペット」によって、ロシアは2016年のアメリカ大統領選挙に介入したわけだ。

▼介入したのはアメリカだけではない。ソックパペットによって運営されていた、ヘイトメッセージを発しているアカウントは、4年間、1日に100回、合計13万回ツイートしていた。イギリス独立党を支持し、ウクライナ紛争におけるロシアの立場を支持し、トランプ候補を推した。

〈2017年には少なくとも18の国政選挙がそうしたソーシャルメディアを使った操作の標的になった。インターネットの悪しき可能性に順応する政府が増えるにつれて、この数は増える一方だろう。〉(187頁)

▼たしかに、減ることは永遠にないだろう。

▼本誌の読者のなかには、以前紹介した、会田弘継氏の論考を思い出した人もいるだろう。「ヘイトとウソと外国と(2)」と題して、憲法改正を唱える人たちの暢気(のんき)な意識に警鐘を鳴らす会田氏の論考を紹介した。

▼会田氏が〈右派言説だからといって、その発信者が必ずしも国内の過激な安倍政権支持者だとは限らない〉〈日本のサイバー専門家の中には、現状では国民投票など絶対に実施すべきでない、とまで危機感を募らせている人もいることは、知っておいてほしい〉と書いていることに留意すべきだ。

選挙は「人の心」が動く一大イベントだ。たとえば、日本において憲法改正は「国のかたち」を変える大事業であり、外国から最も介入しがいのあるチャンスだ。

『「いいね!」戦争』を読んだ人の多くは、「少なくとも今はその時ではない」と考えると思うのではないだろうか。

筆者は「飛んで火にいる夏の虫」という古くて新しい言葉を思い出した。(つづく)

(2019年7月4日)

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