『「いいね!」戦争』を読む(12) 「友だち」の数ですべてが決まる件
▼人間には、仲間を求める本能がそなわっている。それが「ホモフィリー」(同質性)だ。前号では、この「ホモフィリー」が、SNSとのつきあい方を考えるキーワードであることにちょっとだけ触れた。
▼『「いいね!」戦争』では、この「ホモフィリー」(同質性)のくわしい仕組みを説明しているが、その説明の中に、さらに2つのキーワードが入り込んでいるので、一つずつチェックしていきたい。
2つのキーワードというのは、ここ数年ですっかり有名になった「フィルターバブル」と「エコーチェンバー」である。
▼その前に、おなじみになったアマゾンカスタマーレビューのチェックだが、2019年7月5日現在でまだ1件も書き込みなし。摩訶不思議だ。
▼さて、まずは「フィルターバブル」。
「ホモフィリー」は人間が「社会性」をもつ基礎であり、ということは文明の基礎でもあり(197頁)、ホモフィリーという傾向そのものが善でもなければ悪でもないのだが、SNSを介することによって、厄介な現象を起こしてしまう。
厄介さのポイントは、SNSが「ホモフィリー」を引き出しまくると、できあがった集団と他の集団との距離が遠ざかってしまう、というところにある。
▼ここで便利な分析の言葉が「フィルターバブル」だ。「フィルターバブル」という術語そのものが、人間本来の「ホモフィリー」(同質性)と、「遠心力」と、両方の意味を巧みに説明している。イーライ・パリサー氏いわく、
「あなたのバブルの中にはあなたしかいない。シェアされる情報だけが共通の体験の土台である時代に、フィルターバブルは人と人を引き離す遠心力なのだ」(196頁)
パリサー氏の代表作は『フィルターバブル』。ハヤカワで文庫になっている。この本も2020年代の社会論を考えるうえで基本文献だと思う。
▼さて、もう一つの言葉「エコーチェンバー」とはどんな意味合いで使われているか。
〈同じ考えの持ち主が群れると、しだいに狂信的な部族に似てきて、自分たちの思いどおりのエコーチェンバー(残響室)に閉じこもる。
それが人間の性(さが)なのだ。
さまざまな国で何百万人を対象にした多くの研究により、情報がインターネットでどのように拡散されるか、政治やメディア、戦争にどのような影響を与えるかを解説する基本法則が突き止められた。
いちばんの予測材料は正確さではなく、コンテンツですらない。真っ先にコンテンツを共有する友だちの数だ。
彼らはその主張を信じ、それを他人と共有し、今度は同じ主張を彼らが信じる可能性が高い。すべて自分たちのこと、あるいは似たような人びとへの共感についての書き込みばかりだ。〉(197頁)
▼つまり、これからの「情報と政治」「情報とメディア」「情報と戦争」について考えると、そこで重んじられるのは「正確さ」でもなければ、「コンテンツ」でもない。「コンテンツを共有する友だちの数」こそが最も重要だ、ということだ。
と、なんとここで1200字を超えているので、続きは次号以降で。
▼フィルターバブルができて、エコーチェンバーに閉じこもってしまうと、その人にとって〈「事実」をめぐる議論が動機をめぐる議論に変わる〉(199頁)のだし、〈事実とは結局、合意の問題である。合意がなければ、「事実」は意見の一つにすぎない〉(203頁)という惨憺(さんたん)たるニヒリズムの世界が蔓延(はびこ)ってしまう。
自分自身と自分の周りがそうならないためには、その仕組みを知る必要がある。(つづく)
(2019年7月5日)