シェア
大海明日香
2023年9月9日 23:04
薄闇の衛星みたいなダイニングきみの声ばかりひかってしまうもう湯気はたたない青いマグのなか異国の浜辺に似ているミルクさみしさは季節みたいにめぐるからだから言い訳にちょうどよかった言葉など役にたたない肌寒いソファーのうえの甘いまぼろしこのあいだ猫に引っかかれたんだよねさわれない腕消えかけのキズ『こいびとは犬と暮らしていたらしい』胎教もスピッツにしたいねと笑ってはカラオケでわたし
2022年10月11日 23:43
嫌いって言われないから弾けないままで萎んだ水風船はBless you. 線香花火落ちたって嫌いな女は嫌いなままで飲み込んだ西瓜の種が芽吹かないお腹を毛布で大事にまもる君のことわすれるなんてビー玉を取り出すくらいPiece of cake 我々は宇宙人だし恋なんてやめる扇風機首振らないで
2022年8月15日 20:54
神様はわたしの睫毛をのばさないきりんの首をのばしたくせに カブトムシ歌うあの子のサンダルのヒールを折って角にする夢 星よりも愛したいんだよイルミネーションまぶたが勝手に光るわけない 天使でもないのにあの子は愛されて頭に輪っかをもらったらしい アイライン伸ばした分だけロケットは遠くの星に行けるって噂
2022年6月26日 18:29
ぎんいろの蛇口をひねるごと願う冷たすぎずにありますように ぎこちないメッセージアプリ不器用に林檎の皮をむくようにして 空腹と間違えたくて間違ったおなかのあいたような淋しさ ごみ箱も余剰だよって笑ってるカヌレの包みがひとつこぼれる 真っ白なお皿は落ちて星になる今日のぶんの心臓割れちゃった 卵から産まれてないからためらわず卵を割れるひとのオムレツ 侘し
2022年2月18日 18:42
いつまでも落ちない体重あたし以外みんな翼が生えてるんでしょ 理由とかなくてもケーキ食べたいねハッピーバースデーのオルゴール 輪郭を沿わせて彼を駄目にするソファーになるためにやわらかいのに ダイエットアプリのために買うサラダAIにさえ舐められたくない ふくらんだ自尊心しまえないだろうし小さい鞄は買えないでいる 飛べなくていいよと言われるためだけに飛びたいふりをペンギンもした
2022年1月19日 18:18
スーパーでお菓子売り場に捨てられたちくわを群れへと帰す仕事です生きたまま腸に届かなくてもいいやさしいだけのはちみつヨーグルトパック寿司先輩がそっと割引のシールをくれて少女を辞める来週を迎えられない気分でも卵が安くて木曜は春ぼんやりとひかるスーパーをあとにするおじさんぼんじり二本ください
2021年11月28日 20:50
東京をトーキョーと呼ぶじいちゃんはけむりになって町を出てった ふるさとと呼ぶには少し億劫な町で蛙は揚々と鳴く 腹痛に子宮を余らせる朝わたしを産んだひとが割る卵 腐敗でなく発酵としてふくらんだ身体で焦げたパンの骨をひろう 見なくてもよかったニュースいなくてもよかった回転寿司屋のPepper なくてもいいものだけ詰めてたクッキーの缶にわたしを入れて抱いてる
2021年9月11日 20:50
タイムイコールマネーのくらし喫煙所には寿命屋がたまにいるらしい 有り金をはたいて買える数日じゃ消化できない積読の丘 病名がつくのもつかないのもこわい病院は隣町にしかない 降りたことない駅が減っていくたび逃げ場をうしなうような気がする 馬鹿にしか見えない電車ぼくだけをおいて列車は幸福駅へ 別れたら死ぬって泣いてた別れても死なない元カノより重い病 ご近所の夫婦喧嘩で心臓が逆再生
2021年5月31日 20:57
踏切のあぶないですよの音までがしんでしまえに聞こえる朝は 狂わないことと狂ってしまえないこと最寄り駅ホームの清潔 スイミングスクール通えばよかったな息もつけない人の波、波 夕焼けがやけに赤くてきれいだしぼくたちもっと軽率でいい あの川へスマホを投げてやわらかに行方知れずになってしまえば 歯を磨き白いベッドに横たわり電気を落としてころした羽虫 おだやか
2021年4月6日 21:46
教室は世界のくせにグッピーの水槽よりもずっとちいさい感情の8割恋と反抗にすり替えられちゃう赤いセイシュン 500円あれば佐々木は過去になるメアちゃんは走るのが速い恋なんてわからないからもう全部花占いに決めてもらおう カラフルな広告紙に落ちていくかつて前髪だったものたち 校則といっしょに破ったスカートの切れ端でぬぐうミルクティー甘い ツイッターのタイムラインにメア
2021年1月31日 18:28
生と死を重ねてつくるティラミスのいちばん苦いところをすくう しにたいと呟く夜のスーパーで手に取る赤の半額シール 洗いもの溜めておけない包丁のひかりがあんまりおそろしいから この星で切実なのは皿を洗う音をバックにうたう歌だけ たまごやき焦がした夜は眠るのも朝を呼ぶのも下手になるので いい夢を見た日もひどい悪夢でもひたすらあげるからあげあげる うつくしいひとはいつでもうつく
2020年5月22日 19:58
アルバムをめくると潮のにおいがするもう捨てた服の夢ばかり見る いちどだけ狼煙がわりに吸う煙草ひかる年確ボタンを押した 選択のひとつにいつも海がいてぜんぶ捨ててもいいよと笑う 君のせいだよと泣いたのに出立の朝も変わらず君は凪いでる ぼくたちはぼくたちの舟で海をゆく船舶免許ももたないままで もう着ないセーラー服、捨てずにしまいこんだことが、なんの感傷にも未来
2020年2月6日 18:21
生も死もこんなにポエジーだったのにいつになっても詩人になれない 自堕落も孤独も穴も正当化しよう過去すらゲージュツと呼ぼう 生活を選べずにただ細い糸切れないようにと祈るだけの肉 寝る前の朝日が針を狂わせるアパート時空は『記憶の固執』 おやすみをつぶれたまくらだけが聞く過去と明日とさいごのにおい まろやかに寝返る姿の醜さに気付きたくない絵画になりたい 朝なんて呼べない時