ヒト科ヒト属シジンシボウ(連作短歌)
生も死もこんなにポエジーだったのにいつになっても詩人になれない
自堕落も孤独も穴も正当化しよう過去すらゲージュツと呼ぼう
生活を選べずにただ細い糸切れないようにと祈るだけの肉
寝る前の朝日が針を狂わせるアパート時空は『記憶の固執』
おやすみをつぶれたまくらだけが聞く過去と明日とさいごのにおい
まろやかに寝返る姿の醜さに気付きたくない絵画になりたい
朝なんて呼べない時間に鳴かされる電子の庭ににわとりが2羽
海の鳴る音だけで目を覚ましたいそれがだめなら君のいびきで
カァテンの隙間にのぞくあくまの目見られないよう服を着替える
懸命に並んだ歯には牙もなく噛む歯ブラシはいつでもミドリ
ドラム式洗濯機の中に住みたい生活よりは目がまわらない
コーヒーに溶かしたミルクの渦を飲む動けぬあたしといなくなるきみ
トーストのかけらが墜落していくここは宇宙で地球で部屋で
Tシャツのほつれた糸の先端にきぼうがあるって誰か言ってよ
だぼだぼの部屋着が隠すしんだ星自分のものにもならないカラダ
触れられるものしか信じないために見てみたかった愛と幽霊
どこにでも海はあるのにどこからも人魚の唄はきこえてこない
目をとじて「冬の匂いがする」と言う君にそうねと嘘をつく鼻
うるおしたそばから喉もくちびるも乾いていくし永遠はない
さみしさのオバケが成仏しない理由わかんないけどカラオケいこう
歌うため大きく息を吸うと知る誰かのために息はできない
経験もしてないくせに泣きながら吐くラブソング詩はフィクション
愛ばかりうたう馬鹿だと笑われたい愛など説明できない罰に
月の出る前に帰ろう間違って月が綺麗とか言わないように
煙草とか詩とか愛とか砂糖とかみたいに君に凭れてほしい
人と会うときだけ被るヒトの皮脱ぎ着のたびに弛んでふとる
生きること向いてないでしょだってほらうまく食べられないハンバーガー
魔女になどなれやしないとイヤリング外したあとの痛みに思う
ナプキンの羽じゃ空とか飛べないしドアマットがピンヒールを折った
愛しいと軋んでほしいいつだって絆創膏の下の靴擦れ
こんな恋叶わなくても別に良いどうせマトモな詩にもならない
カミサマになってもくれぬひとのため買ったスカートだけが文学
ぼんやりと生きるだけならもういっそ君の飼い犬に生まれ変わろう
死ぬまでにすることリストのよんばんめやさしい人と夜中にケーキ
無意識に体重計に乗る毎夜刹那的になりきれない心臓
未来しか見えずに買ったシングルのベッドの白さ棺桶にして
朝までのあたしのために選ばれたパジャマを着ても眠れぬ夜は
繰り返すように来る朝が怖いから悪夢でいいから夢が見たいの
夢で見た空飛ぶくじらを書いたのはそれが夢だと知っているから
仕送りの茄子の色さえ伝えられないなら言葉を紡ぐ意味など
すれ違うひとの暮らしのうつくしさ言葉にしなきゃ忘れちゃうのよ
詩を食べてくれる魚にあいたくてメッセージボトルネットの波へ
不健康だって知ってて依存した睡眠剤はハートマークで
誰ひとり産めずに今日を終われぬとブルーライトに交尾をせがむ
だきしめた毛玉も名前があったのに飼うのは名も無き女のあたし
それでもと開いた詩集に殴られた無才の馬鹿め夢を見るなよ
泳げない飛べないくせに詩もかけないそれならそうね花でも摘もう
ここは海あたしはヒトできみはトリ名前をくれたきみと心中
だれからも見つけられずに倒れこむ保護もされない絶滅危惧種
泣いたまま化石になっていつの日かプテラノドンのとなりでシジン