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落ち込んでいるときには、スプーン五杯分の砂糖を紅茶にいれる。 この日の午後、カフェの…
駅の構内に吸い込まれていく父親の背中を見送ったエイダンは、寒々しい屋根裏部屋に帰る気に…
この広告は三か月も前のものだよ、君。 ふっくらとした赤ら顔に髭をたくわえた〈K・S・…
暗い窓に、ランプの灯りが映っていた。 アイロン台にシャツを広げ、小型のランドリースト…
濃紺の制服は三つ揃えで、ジャケットの襟もとには〈K・S・R〉のピンバッヂが輝く。 支…
夜間中、牧歌的な路線をひたすら走る〈エンチャンテッド・スターズ号〉は、闇に紛れようとし…
困惑を押しやりながら、乗降口の階段をのぼる乗客に手を貸した。若い男女、老夫婦、家族連れ、一人客。年齢も性別もさまざまな人たちはみな、どこか緊張したような面持ちで乗りこんでくる。 ふたたび蒸気があがり、汽笛が鳴った。あと数分で出発となったとき、若い母親に手を引かれた七歳くらいの女の子が、ユニコーンのぬいぐるみを片手で抱きよせつつ構内を歩いてきた。 「ジェニーにちゃんと謝ってない。ジェニーはこのこと知らないから、手紙で謝らなきゃ。それとも、ママがジェニーに言ってくれた?」
これから往復十日間、つきあわなくてはいけない職場が駅を離れ、夜の都を駆け抜けていく。 …
都が遠ざかり、丘陵の森から田園地帯へと列車は走る。通路の車窓に映るのは、うす暗い電動式…
パトリックとゾーイ、クーパーの冷静な対処からして、乗務員は当然知っているし、こういった…
二時間後、田舎まちの駅で一組の若いカップルが乗車した。その後いくつかの無人駅を過ぎなが…
貨物車両につながる連結部のドアを開けると、外だった。列車の律動だけがこだまする雑木林の…
十五分の休憩をギャレットのもとで過ごしたエイダンは、気もそぞろのまま車両の見まわりに戻…
ギャレットの密偵のような真似をしてまで、エーテル修復師の国家資格試験を受けたくはない。それに受けたところで、合格するとも思えない。やめたほうがいい。僕には向いていないもの。 そんな考えとは裏腹に、ふたたび制服に腕をとおしたとたん迷いが生じる。単純明快なパトリックの言葉を聞いたときは断ろうと考えていたはずなのに、こんな機会は二度とないぞと別の自分が訴えてくるのだ。 この仕事もどうせ辞めるんだろ。そのあとどうする? すぐに仕事が見つかる保証なんてないじゃないか。 だ