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【15】 おしりが死んだ日
そんなある日のこと、抗がん剤の副作用で便秘になっていた私は、「そう言えば数日、出ていないな……」と便意をもよおすことを心待ちにしていました。
そうしてようやく便意をもよおし、トイレに向かった日のことです。
その様子を書くのは憚られるのですが、すみませんが書いてしまいます。
(読みたくない人は、この記事は飛ばしてください)
これまでの人生、便通だけは百点満点で生きてきた私。
人生の中で、たまに硬い便が出て、おしりがちょっと切れたりした経験もありますが、それも数日すれば元通り。便秘ともほぼ無縁で生きてきました。
しかし、今回のこのうんち……。
これは「ただごとではない」と悟りました。
これほどに固く、明らかに尋常ではない量が、肛門から出ようとしている……。
いやいやいや、無理だよ、これは!
絶対、出せるわけがない。
どうしたらいいんだ?
恐怖でゾッとしました。
抗がん剤で末梢神経が傷んでいるため、肛門はただでさえ切れやすい状態です。それでももう出かかっていますので、ひっこめる訳にもいかず、おしりの位置を左右上下にずらしたりしながら格闘しましたが、痛くて痛くて冷や汗が出てきました。すでに肛門が切れ、出血しているのは分かっています。でもとにかく出し切らねば……一体どうしたらいいのか……。
私は、大量のトイレットペーパーをお尻に敷き、パンツを少しずり下げたまま、中腰になってふらふらとトイレを出ました。そうして、部屋にあったワセリンをとってきて、肛門の周りに塗りたくりました。
(頼むから、潤滑油となっておくれ……たのむ!!)
と、願ってみるものの、あまり効果を感じられず、肛門が裂けたまま、どんどん広がってゆきます(涙)
トイレットペーパーが血まみれになって、少しずつ出すのですが、便がとても硬い。何日も便秘をしていたので、量がハンパなく、終われません。
(やばいよ、やばいよ)
……と出川哲郎さんではないですが、このピンチに悶絶しながら、便を出し切るまで一時間以上もトイレで格闘しました。
すべての便を出し切ったとき、悟りました。
(完全に、おしりが死んだ……)
私はふらふらとトイレから出て、布団にもぐり込み、消耗しきった身体を小さく丸めました。
数日前から「おから」をせっせと食べていたことを思い出しました。乳がんの見方である「大豆イソフラボン」を摂取しようと、積極的におからを食べていたのです。大して好きでもないのに、身体のためを思って。
できることならなんでもしようと思って、頑張って食べていた行為が台無しどころか、身体へのダメージにつながってしまうとは。
生きていて、よく思うことは、
「考えて、よかれと思って、わざわざ選択したことが、逆にマイナスに働くことくらい、虚しいことってないよなあ」ってこと。
病気の例で言えば、「治るのなら」と信じて、抗がん剤を投与し、QOLを落としてまで頑張ったのに、それが「命を縮める結果」になったら……そんなの、あんまりじゃないですか。
そして、もっと日常のことで言えば、〇〇や△△を食べると、身体にいいからと、好きでもないのにそればかりを食べて、実は何の効果もないどころか、摂り過ぎると危険な栄養素が含まれていたり。
先日などは、サプリメントで死亡例が出ましたよね(涙)
他にも、美容に良いからって、顔のマッサージをせっせとしたら、逆に顔がたるむことを知ったり。「運動する!」と意気込んで、頑張った挙句に、筋を傷めたり。
「カラダのために」と思って、あえて「我慢」や「努力」を要してまで選んだ選択が、むしろマイナスの効果をもたらす。つじつまが合わない!!
だったら、適当にだらしくなく暮らしていた結果、カラダを壊した方が、納得がいくというモノ(笑)
お豆腐屋さんの片隅で見つけた、「ビニール袋に山盛り入ったおから/100円」に、心が躍った私。
「よっしゃー、これで大豆イソフラボンをゲットだ!!」
とどのつまり、これは私が「欲張り」だという証左です。
母への治療も、自分の治療も、「何が何でも、ミスしないで、一番マシな状況を作ってみせる」と欲張ってきた。
よく言えば、「よく考えて、よく調べて、頑張っている」
悪く言えば、「命に対して、さもしすぎる」
それを認めざるを得ない。
(おしりが痛い……やっちまった……)
布団の中で、縮こまりながら、明日以降始まるであろう便通の苦しみを想像し、いつまでも動けませんでした。
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