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創作ものがたり

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#親子

父さんの魔法のペン

父さんの魔法のペン

このお父さんのペンは魔法のペン。

なんと画面にすいすい絵が描けちゃう魔法のペン。
でも壁に描いても何も映らないんだ。
すごいでしょ?

僕はこのペンを学校に持っていったら人気者になれるぞって思って、こっそりお父さんのカバンからタブレットとペンを抜き出して学校に持って行ったんだ。

でも僕には何にも描けなくて。
パスワードも解けなくて「嘘つき嘘っ子」と言われてしまった。

だってお父さんは、ここに

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息子と気球

息子と気球

「パパー、あれ」

息子が空を見て言った。

「あれはね、気球って言って、空飛ぶ風船だよ」

私は曖昧に答えた。

「空飛ぶ風船?風船だって空飛ぶよ。おれも前風船からパッて手放したらさ、飛んでったもん。空高ーーーく飛んでったもん」

息子の的確な返しに、ぐうの音も出ず、私は一瞬黙ってしまった。
この場合何を言うのが適切か、でもあれは何を飛ばしているかわからない。変な答えを出して、息子に嘘を教えるの

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とある私という清掃員の人生

とある私という清掃員の人生

清掃員になって、もうすぐ10年が経つ。
まもなく私は普通の社会の定年、の上の定年を迎え、職が無くなる。
私は75歳。よく頑張ったものだ。

このビルは何も変わらない。
やることも至って変わらない10年だった。
毎日地下の駐車場の前から箒、モップがけをし、14階まであるビルのエントランスを清掃する。
その中で私はとても興味深く思うことがあった。
それは、人、である。
私に挨拶をしてくる人もいれば、ゴ

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デスクファンと回る夏

デスクファンと回る夏

蒸し暑い日の午後。
キーボードの音と
電話応対をしている声が響くオフィスで、
私は、昔娘に貰ったデスクファンを取り出した。

「お、金平さんがそれを出すということは、もう夏ですね」

同僚の松井がうちわで顔を仰ぎながら話しかけてくる。

「そうだね。夏ももう間もなくな気がするよ。今日はとても暑い」

携帯の充電コードを抜き、空いたUSBタイプのタップに扇風機のコードを差し込む。
今にも全員餃子にな

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お願い

お願い

お願い。
電車のドアに貼ってある警告を母親に呼んでもらい、それを聞いた子どもが声を出す。

ふしんなものって、何?

それは、爆弾とか、鉄砲とか、
怖ーいものだよ。

そう答えた母親の顔を見て、子どもは続ける。

じゃあ、ママもふしんなものだね。
駅員さんに伝えないと。

母親は慌てて

そんなことないでしょう

と子どもに訂正させる。

ううん、そんなことあるよ。ママ、パパとお話してる時、すごく

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僕にとっての赤と青

僕にとっての赤と青

来たるGOサインは青。
誰もが知った常識。

今日、それを覆す。
この自慢の車に乗って、
世界の常識をひっくり返す。

他の車がきていなければ、赤でスタートしても
問題はないだろう。
だからちゃんと右左確認して
もう1回右を確認して、スタートすればいい。

この計算に狂いはない。
そしてこの作戦で行けば、一直線に伸びるこの道路を、皆とは違う時間じくで走ることが出来るのだ。

ちょっと待てよ。
右左

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外回りの夜

外回りの夜

俺はこの線に乗る時、決まって座る席がある。
そこに座らないと何だか落ち着かない。
ムズムズ症候群とやらを感じることすらあるくらいだ。
6号車3番ドアから入って右にある角の席。
そこが俺の定位置。

だがたまに、その俺の定位置に決まって座る女がいる。
そいつに出くわすと俺はもうムズムズが止まらない。
ただこの線は公共のもので、
俺のものでは無いから、俺は向かいのドアの前で立ったままその席が空くのを待

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