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僕にとっての赤と青

来たるGOサインは青。
誰もが知った常識。

今日、それを覆す。
この自慢の車に乗って、
世界の常識をひっくり返す。

他の車がきていなければ、赤でスタートしても
問題はないだろう。
だからちゃんと右左確認して
もう1回右を確認して、スタートすればいい。

この計算に狂いはない。
そしてこの作戦で行けば、一直線に伸びるこの道路を、皆とは違う時間じくで走ることが出来るのだ。

ちょっと待てよ。
右左確認して車がきてたら止まれるのか?
よく言う。車は急に止まれない。
でも自転車も車で、自転車は急に止まる。

そうか。

きっと、覚悟が足りない者がブレーキを踏むと、
急に止まれないのだろう。
自分の周りの者もそうだ。
そう、皆と違う世界を生きる計画を立てた人間は
大丈夫。他は比べ物にならないほど無敵さ。

もうすぐ信号が赤に変わる。
この信号は青が長い。
見慣れたGOサイン。見下されている気がして
ムカムカする。

お前は俺が変わると走れないんだろう?
ほら、いいのか。もう変わっちゃうぞ
スタートラインに着いてもないバカ者が、我らに適うと思うのか。

そう言われている気がして
もっとムカムカした。

見てろ、今からお前の常識も、世界も、
ひっくり返してやる。
よっし、出るぞ。車の道に出るぞ。
こういうのはスタートが肝心だからな。


空が青い。雲が一個もない。
戦い日和だ。神様もわかっているんだ。
見ている。
人がみんなこっちを見ている。


位置について、よーい……



「こら!!!!!!」

「何やってるのあなたは!!!!!」

聞き慣れた声が聞こえたと思ったら
車が引っ張られてバックして歩道に戻る。

「これは車道を走るものじゃないでしょ!」

これは車だ!僕の立派な車。
僕は世界と違う時間じくで生きるんだ!

「何が時間軸よ。意味もわかってないくせに。
そんなこと言うと、車は没収だよ!!」

やだ。僕のベンツ。
アクセルを踏むと走る僕のベンツ。
確かにママが走るのより遅かったけど、
パパが持ってるベンツとお揃いなんだ。

「大方昨日見たアニメに影響されたのね…。
はぁ。どうしたものかしら」

影響なんかじゃない。
僕は僕の意思でベンツに乗ったんだ。
憧れの僕のヒーローは皆と違うことをして
人を助けるきゅうせいしゅ。
昨日もカッコイイ車に乗って、猛スピードで追いかけて、怪物に連れ去られた女の子を助けたんだ。

だから僕も、猛スピードで走って、
この道路の向こうに連れ去られたママを助けに行くんだ。

「社長に言って、アニメ見るの止めてもらおうかな…。これだから子どもって嫌なのよね…
面倒なこと引き受けちゃったなぁ。仕事の範疇超えてるわよこんなの…」

僕は、ママを助けに行くんだ。

あの時窓から見えたママは、笑っていた。
きっと、笑えって言われたんだ
だから怖くて、僕を見てくれなかったんだよね。
赤信号の間、僕はずっと車の後でママを呼んだんだ。
でもママは、ママは。


僕のGOサインは赤。
あの時、ママが連れ去られた時。
怪物は赤信号でも走っていった。

だから僕は、僕は。

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