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息子と気球

「パパー、あれ」

息子が空を見て言った。

「あれはね、気球って言って、空飛ぶ風船だよ」

私は曖昧に答えた。

「空飛ぶ風船?風船だって空飛ぶよ。おれも前風船からパッて手放したらさ、飛んでったもん。空高ーーーく飛んでったもん」

息子の的確な返しに、ぐうの音も出ず、私は一瞬黙ってしまった。
この場合何を言うのが適切か、でもあれは何を飛ばしているかわからない。変な答えを出して、息子に嘘を教えるのは良くない。
私が考えて答えを発するまでに残された時間は恐らくおよそ5秒。
5秒以内に答えないと、絶対に息子に呆れられてしまう。「パパ、わからないんだね…」と。目に見えるようだ。落胆する息子の表情が。
息子は好奇心旺盛でとても物覚えが良く、一度聞いた知識を忘れたことが無い。来年小学生になって様々な学びをしてくる、そんな息子が私に考えを求めている。
ということはここで正しい知識を与えてやらねば間違った子に育ってしまう。

私は脳をフル回転して考える。

気球とは空気より軽い気体を風船に詰め込む事で浮力を得る物のことだ。
これはWikipedia参照。私もこれくらいは覚えている。
空気より軽い気体って?と聞かれたらどうする、いや、それは沢山あるんだよといえばいい。
今回は気球とは風船と何が違う?という質問であるが故に風船との違いを言えば良いのだからこれを踏まえて私が言うべき答えはひとつ。
その大きさだ!!!

「気球って言うのは」

「あれは気球って言うよりバルーンカメラだよね。オリンピック、パラリンピックの開催地を監視するために警察の人達が設置した厳戒態勢のための。気球といえば気球だけど、ただの気球じゃなくて、用途としてはカメラ。だからあれはパパの説明を基に考えると、ここら辺を撮るために飛ばされた大きい風船ってことだよね、パパ」

ん?

「ね、パパ」
「ん?うん」
「良かったー。合ってたー!昨日テレビで見たんだ。それが見たかったの、おれ。わー、生バルーンカメラ。すごいね、パパ」

息子は空を見てはしゃぎ走り回る。

「うん」

私はバルーンカメラと言われたそのでかーい風船を写真に撮り、ホーム画面に設定した。

私の右目から一滴の涙が落ちた。

いや、なんてことない、息子の成長に感動しただけ。
それだけさ。

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