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父さんの魔法のペン


このお父さんのペンは魔法のペン。

なんと画面にすいすい絵が描けちゃう魔法のペン。
でも壁に描いても何も映らないんだ。
すごいでしょ?

僕はこのペンを学校に持っていったら人気者になれるぞって思って、こっそりお父さんのカバンからタブレットとペンを抜き出して学校に持って行ったんだ。

でも僕には何にも描けなくて。
パスワードも解けなくて「嘘つき嘘っ子」と言われてしまった。

だってお父さんは、ここに本当にすごい絵を描くんだ。
この魔法のペンで、鉛筆みたいに、マッキーペンみたいに、濡らした筆みたいに、
このペンだけで何でも描けちゃうんだ。

僕は本当にそれが大好きで。
僕のお父さんは凄いんだよって、それが言いたかったんだ。

嘘なんかついてないのに嘘って言われて
お父さんのことも否定された気がして、
僕は泣くほど悔しかった。

家に帰ってお父さんに怒られた。
今日、お仕事で使わなきゃいけなかったのに無くてとても驚いたと。

僕は学校で嘘つきって言われたことを話した。

するとお父さんは、勝手に人のものを持っていく悪い子に、このペンは答えてくれないんだ。
このペンがいい人間と認めてくれなければ、何も書けやしない。

と言った。

いい子でないと、使えないペン。
僕はそのペンが僕を認めてくれることを夢見て毎日毎日いい子に過ごした。

お母さんから言われる前にお手伝いしたし
お父さんの仕事のお手伝いもして。
沢山沢山いい子になった。
悪いことひとつもせず、ただただお父さんの絵を見ながら、毎日毎日いい子に。

だからかな。

今僕がこうして、このペンと共に仕事をして
大好きな父さんの隣で仕事をしているのは。

お前の、絵、少しマシになったな

父さんは僕の絵を素直に褒めてくれないけど、
このペンを使って初めて絵を描いた時に言った

いい絵を描くんだな

その言葉を、僕はずっと心に持って今も絵を描いている。

これからも僕は、父さんの使っていたこのインクの出ない魔法のペンと共に、ずっといい子に生きていく。

魔法を使い続けて生きていく。

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