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弱おじの本棚

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読んだ本の記録です。
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#小説

綺麗じゃない世界観が生み出す綺麗なオチ 〜「人獣細工」を読みました〜

綺麗じゃない世界観が生み出す綺麗なオチ 〜「人獣細工」を読みました〜

小林泰三さんの「人獣細工」を読んだ。

決して綺麗な話じゃない。
むしろ、目を背けたくなるようなダーティーな世界。

そんな物語なのに、読後の爽快感はなんだろう。

きっと、ダーティーだけど、綺麗なのだ。
物語として。

ホラーに分類されるものと思われるが、あまりにも驚いて悲鳴をあげた後に、残るのは「やられた!」という一種の清々しさだったりする。
そうして癖になる。脳が侵食される。ある意味で、これ

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異常な物語を愛する僕らもきっと異常。〜「殺人出産」を読みました〜

異常な物語を愛する僕らもきっと異常。〜「殺人出産」を読みました〜

村田沙耶香さんの「殺人出産」を読んだ。

普通とは何だろう?
そう考えさせられる。

こんな設定を思いつく作者は、良い意味で「異常」だなと思う。

この本がすごく人気らしい。
異常な作者が書いた、異常な物語が。

だったら、楽しく読んでる僕らの側だって、実は異常なのだろう。
隠しているだけで。
皆、普通を演じながら日々生きているだけの、異常者なのかもしれない。

普通なんて、この世界にはないのかも

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読書ってより毒書。ヤバいに触れることで、反面教師を得られる。〜「緑の毒」を読んで〜

読書ってより毒書。ヤバいに触れることで、反面教師を得られる。〜「緑の毒」を読んで〜

桐野夏生さんの「緑の毒」を読んだ。

犯人がヤバい。
まともではない。

だけど、その犯人もまた、人である。
私も同じく、人である。

人ってやばい。
人って怖い。

例えば大きなストレスがあったとして。
人生なんてどうにでもなってしまえと思えてしまう出来事が起こってしまったとして。

僕が犯人のようにヤバい行動を取らないと、100%言い切ることができるのだろうか?

僕はそこまで、僕を、そして人

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ダークでお洒落な世界観。「薬指の標本」を読んで。

ダークでお洒落な世界観。「薬指の標本」を読んで。

小川洋子さんの「薬指の標本」を読んだ。

恋愛の辛さ、苦しさ、色んな感情が詰め込まれた物語だった。

決して明るい物語ではないのだけど、静謐でダークな世界が何だか癖になる。

読後はおしゃれな気分と人生への虚無感が入り混じったような、何だかうまく言葉にできない感情になれた。

筆者の世界観が好きだなと感じました。

政治の批判するならこれくらいの小説書く覚悟を持ちな?〜「もしも徳川家康が総理大臣になったら」を読んで〜

政治の批判するならこれくらいの小説書く覚悟を持ちな?〜「もしも徳川家康が総理大臣になったら」を読んで〜

「もしも徳川家康が総理大臣になったら」を読んだ。

政治を批判する私たち。
だけどその声は届くはずもない。

この小説はどうだろう。
歴史上の偉人が総理大臣や政権を担うという斬新な設定で、そこと比較して現在の政治の足りない部分を的確に指摘していく。
ただ不平不満を述べているだけの私たちとは違う。

小説の力を感じた。
ただの愚痴も、文学に乗せてしまえばそこに宿る重みが違う。

理想の社会。思い通り

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臍の緒のような、僕に生きる栄養をくれる人間との繋がり。〜「つるかめ助産師」を読みました〜

臍の緒のような、僕に生きる栄養をくれる人間との繋がり。〜「つるかめ助産師」を読みました〜

小川糸さんの「つるかめ助産院」を読んだ。

人を救うのは、人との繋がりでしかない。
そう思い知らされる。

赤子と母の臍の緒が繋がるように、私たちは誰かと関係を繋いでいく。

きっといつまでも、1人で生きていける時なんてやってこない。
臍の緒を切って、人間関係という栄養が遮断された中では、きっと苦しくて息ができない。

それでいい。
私は弱い。1人で生きてなんていられない。
その自覚が、開き直りが

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生きづらい理由は生きやすい場所にいないから。「め生える」を読んで考えたこと。

生きづらい理由は生きやすい場所にいないから。「め生える」を読んで考えたこと。

高瀬隼子さんの「め生える」を読んだ。

皆がハゲてしまうという斬新な世界設定のフィクションだけれども、「生きやすさ」とか「マイノリティ」とかについて深く考えさせてくれた。

僕はハゲていないのだけれども髪があることが普通とされているこの世界では、ハゲている人はやっぱり辛い。
スキンヘッドにしたり、ハゲをネタにしてみたりして、どうにか折り合いをつけて生きている。

世界が反転したらどうだろう。
ハゲ

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人間の内面を描いた時点でそれはもうSF。「盤上の夜」を読みました。

人間の内面を描いた時点でそれはもうSF。「盤上の夜」を読みました。

宮内悠介さんの「盤上の夜」を読んだ。

将棋や囲碁などのボードゲームを題材にした短編集。
それぞれのゲームを通して、人間の内面であったり人生というものについて深く描かれていてとても面白い。

本書はSF大賞も取られているとのこと。
え、SF?これってSFなの?と感じたが、SFという言葉を調べてみると「空想的な小説」という意味があるらしい。

リアルな世界をもとに、人間の心という空想的な世界を描いた

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登山とは人生であり、人生とは登山であり。「残照の頂」を読んで。

登山とは人生であり、人生とは登山であり。「残照の頂」を読んで。

湊かなえさんの「残照の頂」を読んだ。

登山と人生。
よく対比される二つ。

様々な思いを抱えながら、山を登る人々。
みんな色々ある。
そう思えるだけで、力強く、明日へと踏み出す力をもらえる。

登山の季節がやってくる。
一歩一歩、無心で歩みを進めていく。
山に登らずとも、皆が山を登っているのかもしれない。

登っていく自分を労っていこう。
他人を見下すのではなく、共に人生という山に挑む仲間として

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依存をしないために自立をしなきゃ。「盲目的な恋と友情」を読んで感じた人生の難しさ。

依存をしないために自立をしなきゃ。「盲目的な恋と友情」を読んで感じた人生の難しさ。

辻村深月さんの「盲目的な恋と友情」を読んだ。

他者への依存をテーマにした作品で、怖いな、と同時に、わかるな、と感じた。

人は弱い生き物だ。
自分に足りない部分を、何かで埋めなくては生きていけない。

だから酒を飲む。
ギャンブルにハマる。
タバコを吸い、時にはいけない薬なんかにも手を出す。
いわば、依存だ。

人への依存は、その最たるものかもしれない。
満たされない。認められたい。この世界に自

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人生と小説はマジ自由。「みどりいせき」を読んで感じたこと。

人生と小説はマジ自由。「みどりいせき」を読んで感じたこと。

大田ステファニー歓人さんの「みどりいせき」を読んだ。

お洒落。ポップ。
今風。

小説というお堅い存在に抵抗がある人は、騙されたと思って読んでみて欲しい。
こんな小説もありなんだと、表現は自由なのだと、きっと驚くはずだ。

人生を楽しむ。
ルールなどない。

物語の内容とか、それ以前の部分で強く感銘を受けた作品。

作者の生き様だとてもかっこいいです。
やりたいことやろう。
人生はまだまだ楽しめ

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「闇祓」を読みました。

「闇祓」を読みました。

辻村深月さんの「闇祓」を読んだ。

ホラーミステリーというジャンルで、ドキドキしながら、時に共感しながら楽しく読み進めた。

本書のテーマである造語の闇ハラだが、現実世界でも往々にして起こっていることだと感じる。

自分の闇を他人に押し付け、自分本位に苦しめていないか。
心を曝け出しているようで、相手の困った顔を見てみないふりしていないか。
なんなら可哀想な表情を見たいとまで思ってないか。

本書

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「名探偵のままでいて」を読みました。

「名探偵のままでいて」を読みました。

小西マサテルさんの「名探偵のままでいて」を読んだ。

認知症を患った祖父が、その幻視を通して事件を解決していく物語。

主人公である孫娘との、暖かなやり取り。
周囲の人間たちとのつながりに心がほっこりする。

本作は、作者の父が実際に同じ病を患ったところから発想を得たそうだ。

きっと介護の中で辛いことややりきれない気持ちも多くあったことだろう。
それを物語に昇華し、多くの人の感動や喜びを生み出し

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「spring」を読みました。

「spring」を読みました。

恩田陸さんの「spring」を読んだ。

天才男性バレエダンサーを描く物語。
躍動感が凄まじい。
登場人物だけじゃなく、文字まで踊っているみたいだ。

何より、おしゃれ。
シンプルなデザインは、まさに研ぎ澄まされたバレエの世界の住人のようだ。

バレエの世界は全く知らなかったからこそ、新しい世界やまだ見ぬ才能に触れることができ、とても素晴らしい読書体験となりました。