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読書日記

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#小説

ライトミステリの顔をしたメッセージの強いミステリ『なんで死体がスタジオに!?』

ライトミステリの顔をしたメッセージの強いミステリ『なんで死体がスタジオに!?』

本の賞味期限、みたいな観点があるのだけど、この本は今放送中の番組名やら人の名前やらを連呼しているので、時間が経っちゃったらどうなるんだろう…と勝手に心配しちゃいました。
だからこそ、急いで読んだ方が面白い小説だとも言えます。

”すべらない話”を彷彿させるような、生放送特番の「ゴシップ人狼」。出演者は順番に芸能界のゴシップを暴露していくのですが、中に嘘を言っている人狼が紛れ込んでいる、というゲーム

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読み終わって「ありがとう!」と叫びたくなった『俺たちの箱根駅伝』

読み終わって「ありがとう!」と叫びたくなった『俺たちの箱根駅伝』

『風が強く吹いている』『チーム』『Run!Run!Run!』私が読んだだけでもいくつかすらすら出てくるくらい、箱根駅伝というスポーツを追った小説は少なくありません。
池井戸さんが箱根を描くというんだから、これはきっと靴も書くに違いない、大人のドロドロも書くに違いない…わくわく。と、どこか邪念に満ちた気持ちで読み始めたのですが、途中から目から出る汗をこらえられず、鼻水垂らしながら読み終えました。

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『世界でいちばん透きとおった物語』

『世界でいちばん透きとおった物語』

本を読んで感動する事はしょっちゅうあるけど、動揺したのは初めてでした。核心に迫った瞬間が電車の中だったんですが、動揺のあまり声が出ちゃった。

読むと決めた小説はなるべく情報を入れず、オビも、人の感想もなるべく見ずに読むようにしてます。この本はすでに話題になってたので、とにかくびっくりするらしいということはわかってました。

様々な伏線が転がってて「まあ、この辺のパーツがハマってくんでしょ、きっと

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『ペニー・レイン 東京バンドワゴン』

『ペニー・レイン 東京バンドワゴン』

「今年も、親戚の家に遊びに行って近況を聞いてきました」というのが率直な感想です。もう18冊目なんですって。コミックでは珍しくない巻数ですけど、小説でこれをやり続けてるのはほんとにすごいことです。

サザエさん的に時間がすすまないわけではなく、バンドワゴンを営む堀田家では皆が成長し、悩み、新しい展開があって…と、確実に時が動いています。だからこそ、小さい頃から見知った子もいる親戚に遊びに行って、1年

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『木挽町のあだ討ち』は仕掛けがわかったところからが面白い

『木挽町のあだ討ち』は仕掛けがわかったところからが面白い

永井紗耶子の本は『女人入眼』を読んで、こりゃすごい人だ、と思っていました。この本はその時の話題ぶりを超えているので早く読んでみたいと思っていた1冊。
ミステリ仕立て、ということはそういうことでしたか。とニヤッとしながら読了しました。ある仇討ちをめぐって、その目撃者たちの話を聞いていくというお話。要は『藪の中』みたいなやつですね。

本に仕掛けられた大掛かりな仕掛けは、正直なところ冒頭ですぐにわかっ

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伊良部復活!『コメンテーター』

伊良部復活!『コメンテーター』

昨年読んで面白かった本ベスト5、を考えたときに(考えるだけで決められてないけど)『リバー』は確実に上位に入ります。本屋大賞にノミネートされなかったことで地団駄踏んだくらいですもん。『リバー』は犯罪小説、『最悪』も面白かったなー、とか『邪魔』ってのもあった。最近だと『罪の轍』もすごかったし、『オリンピックの身代金』もよかった…
などなど、奥田英朗のそれなりの読者なんです。

が、頭を切り替えないと出

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『成瀬は天下を取りにいく』…なんだこの楽しさは!!

『成瀬は天下を取りにいく』…なんだこの楽しさは!!

なにこれ、めっちゃ楽しい。

最近の小説、特に青春小説は子どもが不幸になりがちで「不幸にならないと感動はないのか…」と暗澹とした気持ちを抱いていたところでした。
この本はそんな暗澹とした気持ちをどーんと吹っ飛ばしてくれるような小説です。

中高生時代。活動範囲は狭いけれど、大人が思っている以上に彼らの心の中の世界は大きく、そして彼女、彼らの前に広がる世界は無限です。
成瀬たちが生きる世界では、西武

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『踏切の幽霊』は単なる心霊モノではなかった

『踏切の幽霊』は単なる心霊モノではなかった

『ジェノサイド』から11年も経っていたというのが一番の驚きでした。あの本があまりに凄かったから、それまでの高野さんの作品がどういうものだったかを忘れてしまっていました。読んでみて「おお!久しぶりのこういう感じ」と懐かしく、嬉しくなった、そんな作品です。

幽霊といったらちょっとコメディタッチの入った『幽霊人命救助隊』という小説もあります。

が、こちらはガッツリシリアス作品。時代は、ポケベルがケー

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隠蔽捜査シリーズ最新刊は相変わらず組織人にとってのファンタジー作品だった(大好きなやつ)

隠蔽捜査シリーズ最新刊は相変わらず組織人にとってのファンタジー作品だった(大好きなやつ)

隠蔽捜査シリーズが、というか竜崎伸也という存在は組織人にとってのファンタジーのようなものです。いたら会ってみたいし、それはそれで面倒なような気もするし、まああんなに上手く行くのは小説だからだよね…といったお決まりの感動と諦めを楽しむエンタテイメント。

で、ファンタジー小説の良し悪しというのは、小説世界の広がりや奥深さをどこまで細かく作ってあるかが重要だと思うのですよ。隠蔽捜査の~.5シリーズはま

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息をつめて見ていたものは何だったのか。重い選択があとをひく『息をつめて』

少年事件の被害者、加害者どちらも小説の題材としては珍しくないものだけれど、この小説はその描き方が面白かったし、親の立場に立ってみると、様々なところで重い問いを投げかけられたような気持ちになります。

冒頭、自分の存在を全てから隠すように、警察や周囲の人に気づかれないように生きている主人公(51才女性)の様子を見ていて、どうして「息をひそめる」ではなく「息をつめる」という言葉を使ったんだろうと少し疑

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色々な意味で非常にクリエイティブなミステリだった『君のクイズ』

色々な意味で非常にクリエイティブなミステリだった『君のクイズ』

どんな系の小説?と聞かれたら「日常の謎系?」「どんでん返し系?」と答えると思います。

小説を書くということ自体がクリエイティブな仕事だけど、今回の本については本当に何か新しい事をクリエイトしたなあ、新ジャンル開拓!?。とそんなことを感じながら読みました。

史上最高額の賞金を争うクイズ番組で、最後の最後の1問を決めたのは問題が読まれないうちに早押しをするという「ゼロ押し」が起きます。そしてそれに

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犯人逮捕後の世界が続いている事を感じた秀逸な群像劇『リバー』

犯人逮捕後の世界が続いている事を感じた秀逸な群像劇『リバー』

650ページもあると、本屋さんの店頭でめくってみるまでもなく圧倒的なオーラを感じます。さらにそこに来て様々な人の絶賛コメントを見ていたので急ぎ購入。正直、積ん読になるかもしれないけど、、、と思っていたんですが、読み始めたら数時間で読み終わっちゃったよ!(*目が腫れました

物語は渡良瀬川河川敷で女性の全裸遺体が発見されたところから始まります。連続で類似事件が起こる上に、10年前にも同様の事件が発生

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私が知る世界は広いのか、閉塞しているのか。『八月の母』を読んで

私が知る世界は広いのか、閉塞しているのか。『八月の母』を読んで

大きな、そして歴史にも残る衝撃的な事件が起こり、報道で伝わってくる犯人の話を眺めていて『八月の母』を読んだ時の気持ちを記録しておきたくなりました。家族や地域という閉塞された空間からどうやったら逃げ出せるのか、その連鎖は断ち切れるのか。様々な思いが渦巻きます。

この本は、信頼する読み手の友人たちが発売前から手にとり、読んでおり口々に絶賛と衝撃を語っていた本です。
明るい話でないことも、大きな衝撃を

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想像を超えた男女入れ替わりもの『君の顔では泣けない』

想像を超えた男女入れ替わりもの『君の顔では泣けない』

発売してすぐにお薦めいただき手元に置いたままにしていた本でした。ちょうど手元に本がなかったタイミングでふと手にとり読んだのですが、読み始めたら途中で止ることなく一気読み。ぐっと心をつかまれ、今まで読まなかったことを激しく後悔しました。

お話は高校1年生の時にプールに落ちたことがきっかけで身体が入れ替わってしまった男女の物語。
男女入れ替わりは小説にしても、マンガにしても映画にしても珍しい題材では

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