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『踏切の幽霊』は単なる心霊モノではなかった

『ジェノサイド』から11年も経っていたというのが一番の驚きでした。あの本があまりに凄かったから、それまでの高野さんの作品がどういうものだったかを忘れてしまっていました。読んでみて「おお!久しぶりのこういう感じ」と懐かしく、嬉しくなった、そんな作品です。

幽霊といったらちょっとコメディタッチの入った『幽霊人命救助隊』という小説もあります。


が、こちらはガッツリシリアス作品。時代は、ポケベルがケータイになって、記者が手書き原稿をやめ始めたような頃。奥さんの死から自分もどこか亡霊になったような記者が主人公です。新聞記者から雑誌記者になって、心霊写真の調査を始めるのですが、そこから思わぬことが見えてきた・・・というお話。

正直、冒頭から暗さが(人も背景も、書かれている時間も暗い)まとわりつくので、乗ってくるまで時間がかかりました。幽霊譚って、どうしても現実なのか妄想なのかが読み解きづらくて読み始め混乱するんですよね。
でも中盤からはページをめくる手が止まらなくなって、ラストまで読み切った今は心霊の成仏を見守ったようなそんな達成感に包まれています。

幽霊の話という色が強く出ていますが、私は一人のマスコミ記者の生き様を描いた小説として読みました。奥さんの死をしっかり乗り越えることが出来ない主人公が、事件を追う中で「助ける事」「真実を明らかにすること」「明らかにすべきでないこと」を考え、変わっていきます。
本を読むときには、頭の中で映像にして物語を追っていく事が多いのですが、この本は主人公のイメージが浮かんでこずにいました。なんとなく主人公が幽霊みたいだったんです。だから冒頭で乗れなかったのかもしれません。
物語が進むと、輪郭がくっきりしてきます。心霊写真の裏を探っていくことは、幽霊のようになっていた主人公の心と人らしさを取り戻す過程でもあったのかもしれません。こんな読み方をしている人はいないかもしれないけれど、読み終わって時間がたてばたつほど、「やっぱ高野和明という人はすごい人だな」と思えてくるのです。
次は10年も待たせずに新作出してください、高野さん。

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