息をつめて見ていたものは何だったのか。重い選択があとをひく『息をつめて』

少年事件の被害者、加害者どちらも小説の題材としては珍しくないものだけれど、この小説はその描き方が面白かったし、親の立場に立ってみると、様々なところで重い問いを投げかけられたような気持ちになります。

冒頭、自分の存在を全てから隠すように、警察や周囲の人に気づかれないように生きている主人公(51才女性)の様子を見ていて、どうして「息をひそめる」ではなく「息をつめる」という言葉を使ったんだろうと少し疑問に思っていました。それくらい、ひっそりと生きている感じが伝わってきたので。気になって気になって辞書を調べてみたところ、「息を詰める」には、呼吸すらをも止めて何かに集中しているというニュアンスがある、というのを知りました。そして深く納得。彼女が注意深く見ていたのは、産まれてから「どこかおかしい」と思い続けた息子の成長だったんですね。

毒親にまつわる問題は枚挙にいとまがありませんし、ここのところ、引きこもりニートになってしまった子どもにまつわる問題も表に出てきました。小説の世界だけでなく現実にも。

一方で、どこまで家族から逃げることが許されるのか、どういう選択肢があるのかという事も考えていかなければならない時代になっているんでしょう。読んだ後誰かと話をしたくなる、お腹に何かが残るような小説でした。

桂望実といえば、どこか陽気で前向きになれる小説のイメージが強かったので、久しぶりに読んでみてその重さにびっくりしてます。


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