菅沼恭司

世人もすなる日記といふものを、吾もしてみむとてするなり。 いろんなテキストを書いて、皆様に見て頂いて生きている物書きです。 ここでは思い出、奇妙なお話し、筆のすさびなどいろいろと。 よろずのご依頼、ご相談などは yahaginosuke@Gメールまでよろしくお願いいたします。

菅沼恭司

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マガジン

  • 書けん日記

    不肖。書けん作家の、日々の苦悶とか無為とか後悔とか失敗とか。ささやかな慰め、喜びなどを不定期と定期更新の間を揺れ動きながら書く日記です。

  • 三河もん昔話

    書けん日記の傍ら、不肖が思い出の中から書く生まれ故郷にして今を生きる土地『三河』地方の、とりとめないさまざまの昔話や思い出を書く場所です。 おばけの話、不思議な出来事など。

  • ものかきものがたり

    物書きになりたかった―― 田舎の愚かな少年が、そんな妄念にとりつかれ。故郷を飛び出し、上京してもがいて迷って絶望して立ち直ってまた迷って。しまいには「不肖の私」たる物書きになるまでの思い出語りです。 ほぼ失敗談しかありません(遠い目)。

  • SS屋台通り

    皆様にお届けするSSをこちらにまとめております。アメリカンなマフィアたちのお話、岩沙漠の廃墟と化した街、東海岸の港町、はたまた別の修羅場や、甘いひとときなど――皆様にお楽しみただけますよう、がんばります。

最近の記事

書けん日記:42 破壊と再生の合間で

弱り目に祟り目、などという言葉もあるように―― 草刈りで足を怪我してしまって農奴仕事すら失ったその翌週、不肖がずっと使っていたノートパソコンが壊れた。 ウィンドウズすら立ち上がらなくなって、ネットにもマシンにも盆暗の自分ではまさにお手上げ。パソコンの中のデータも、クラウドに置いていた作業データにすら触れなくなってしまった。 そのノートパソコンは、T氏の事務所からお借りして、イタリアンマフィアの物語、デイバンとロックウェルでの戦争や逢瀬をずっと書き綴ってきた思い出のマシン。愛機

    • 書けん日記:41 夏の終わりと農奴の終わり

      8月末。灼熱の夏の終わりの頃。 不肖が日雇い労働していた三河の圃場、水田では、早いところではお盆過ぎにはもう稲が金色になって稲穂が実り、稲刈りの時期となる。 そして、9月上旬。 毎日、早朝から耐暑装備、農奴スタイルに身を包んで現場に出ていた不肖は―― この頃になると、ほとんどの水田は水が切られて地面も稲も乾かされ、いちめん、金色となった田んぼに次々と大型のハーベスターが入り、稲を刈り取り籾米を収穫してゆく。 つい、数ヶ月前は。 5月の初夏には田植えのための支度で、代かきされ

      • 三河もん昔話:4 押切

        母を亡くして数年経ったころ。 主だった葬儀も、三周忌と追善菩提もおわり、私は……だが。 以前の日常には戻れずにいた。 母に何もしてあげられなかった、守れなかった、そんな無為な後悔だけが汚水のように頭蓋と腹の中から染み出し、それは自家製の毒となって私自身を腐らせていっていた。 厚意で頂いている仕事すら進められない無力感、罪悪感。荒んでゆく生活。 酒をのんでも、胃の腑にたまらず、アルコールとホムアルデヒドが脳をただ浸して私の中に残っている細い自我を、作家としての能力と矜持を泥の

        • 書けん日記:40 お盆の膳

          お盆ですね。そして盆も終わりますね。 盆といえば―― 今から10年以上も前。 母は、活発で温和な人だったが――脳腫瘍で、70の半ばで亡くなった。 母の入院と手術、看病、そして急激に衰え痴呆が進んでゆく母の介護は、ひどくつらいものだったが……だが、それは期間にすれば一年ほどで……母の死で、終わった。 母が亡くなった、翌年。半年後の、夏。 その年のお盆、母の初盆が始まった。ひどく暑い、雨の降らない夏だった。 家の仏間、去年、母が遺体になって戻ったその仏間には、三河の浄土宗

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        記事

          三河もん昔話:3 女郎蜘蛛

          これは私の故郷、三河の片隅にある、とある農村。私の生まれ育った村での話。 私の生まれたU村は、まさに谷岡ヤスジ先生ワールドな農村。 世界有数のインダストリアル、トヨタ自動車の巨大工場がある豊田市街……から、少し離れるとそこはもう、自然あふれる農村だ。U村も、そんな農村の一つ。私はそこで生まれ、少年時代を過ごした。 U村には、昔ながらの神社、神明神社がその中心にあった。神明神社は、伊勢神宮内宮を総本社とし、天照大神を主祭神とする神社で、農耕、農民の神社でもある。 U村の神明社

          三河もん昔話:3 女郎蜘蛛

          書けん日記:39 灼熱 三河大砂漠 にて

          2024年、夏。7月、そして8月。 連日、真夏日どころか災害レベルの酷暑に見舞われてしまった日本。 不肖が這いつくばって暮らすここ中部地方、三河でも、日中の最高気温が毎日38度、酷い日は39度、40度に達する日が続き――しかも、7月末からほとんど降雨がない、乾ききった灼熱の大地となった三河。農業用の溜め池の水も枯れ、稲、他の農作物の生育にも問題が出る。 灼熱の、夏。 ・Meet1 草ぼうず連日、WBGTの危険アラートレベルの灼熱、酷暑が続く。 ……だが。 あのアメリカ海兵

          書けん日記:39 灼熱 三河大砂漠 にて

          ものかきものがたり・8行め:「逢瀬」

          「肉を食いに行こう。もちろん僕の奢りだよ」 青年が、印刷屋のアルバイトで出会った作曲家の先生は―― ほとんど見ず知らず、赤の他人、業界人の先生にとっては歯牙にもかけない小僧の青年を、アルバイトから直帰の予定だった青年を食事に誘ってくれて。しかも、それなりの店に入るために――薄汚れた仕事着の青年に、自分の上着と靴を貸してくれた。 先生が呼んだタクシーの中で、借り物の服をまとって縮こまっている青年に、先生は。 「きみ、菅沼くんは……新宿で遊んだりするかね」 「……いえ。新宿は

          ものかきものがたり・8行め:「逢瀬」

          書けん日記:38 晴耕雨書2

          永遠に続くかと思われたジャガイモ掘りは終焉を迎え、鎌と鍬、コンテナ箱は、不肖の手を離れる。 しかし休息はなく、次にその手が掴んだものは、おちんぎんではなかった。 草刈り機、ガソリン缶、そこに添えられた1枚の地図――不肖の地獄は終わらない。 山の田んぼにて 弟者「兄ちゃん。今日はちぃーっと、いつもと別の遠いところの草、刈ってちょーや。これ地図ね、今日はここ終わったら上がりでええから」 不肖「……わし、午前中まで芋掘ってたんやが――うん。草刈りね、って。これ現場どこさ、もう瀬戸

          書けん日記:38 晴耕雨書2

          書けん日記:37 晴耕雨書1

          雨。私の住む三河、中部地方も梅雨入りして、連日の雨に。 百姓殺すにゃ刃物はいらぬ、雨の三日も降ればいい―― というやつでありますが、ようやく、一時とはいえ命の危険があるレベルの酷暑と陽射し、一発労災な重機が徘徊する現場から解放された農奴こと、不肖菅沼。 かの宮沢賢治先生の「雨ニモマケズ」を再読し、なかなかそういう人物にはなれないものだなあ、とか。 を読んで……ああ、宮沢せんせー。インテリのお坊ちゃんでしたね。その食事量、百姓じゃないっすね。などと、内燃機関のない当時の農民

          書けん日記:37 晴耕雨書1

          ものかきものがたり・7行め:「接近」

          いつもと同じように、印刷工場でのアルバイトに出て。確か、季節は5月頃の週末。 夏と冬の繁忙期の端境で、大きな仕事は宗教のそれだけ。暇ではないが、余裕のある工場で。いつものように、倉庫から搬出した紙を積み上げ、宗教の事務所に納入する封筒を箱詰めしていた青年のもとに、 「菅沼くん、ちょっと配達を頼むよ。君は、初めてのところになるけど――」 印刷工場の受付をしていた社員に呼ばれた青年は、小口注文を配達するための窓口で……ひとつの、小ぶりな梱包と、手書きの地図を渡された。 「自転車で

          ものかきものがたり・7行め:「接近」

          ものかきものがたり・6行め:「邂逅」

          日雇いの倉庫作業にも、行かなくなった青年は、東京で無為な日々を過ごすだけの無職の男に成り果てていた。 物書きになりたい、アニメの仕事がしたい、という夢、願望、妄想すらも――その頃には手の届かない輝き、海中の宝のように、青年の中では追うことも、目を向けることすら苦しい『呪い』になってしまっていた。 それでも、青年は故郷の三河には戻らなかった。 今戻れば都落ち、作家になどなれるわけがない、と私を諭してくれていた恩師や家族、友人たちの正しさを認めるのが耐え難く。そして、底辺ではあ

          ものかきものがたり・6行め:「邂逅」

          書けん日記:36 あなたがいるから

          今回もアウトドアの話題―― といえば聞こえは良いのですが……はい……。また野良農奴の話題です。 快晴だったり雨降りだったりの5月。雰囲気ではまだ春、晩春なれど、野良。田んぼや麦畑の圃場では外気温30度超えもあたりまえの、もはや初夏どころか、夏。 そんな野良での、いろんな出会いなどをつらつらと。 ・Meet1 イタリアンライグラス 昔は――三川の辺りでは田植えと言えば6月、梅雨の頃のイメージがありましたが。 昨今は温暖化の影響、灌漑の進歩、品種改良もあって時期も早まり、中部

          書けん日記:36 あなたがいるから

          書けん日記:35 神の水

          こちら―― T氏とSFネタや作品をやり取りする中で教えて頂いた、バチガルピ先生の「神の水」。原題は「THE WATER KNIFE」。 化石燃料が枯渇した近未来を舞台にしたディストピアSFの名手であるバチガルピ先生が描く、水資源が枯渇した近未来のアメリカ――現実に迫りつつある、地球規模の危機――それを題材としたSF。 いやあ、これがですねえ。 面白いです、はい。バチガルピ先生のSF短編集「第六ポンプ」もたいそうにディストピアで、胸が清々しくなるほど救いがない世界の物語なのです

          書けん日記:35 神の水

          書けん日記:34 野良仕事における出来事たち

          前回は、農業の日記でしたが―― ……今回も、農業です。 最近の不肖、5月の農繁期の不肖めは、もはやダマされるまでもなく日雇いの野良仕事に従事。テキストお仕事も無い今は、悲しいかな、心置きなく朝から夕方まで肉体労働で日銭を稼ぐ日々。 5月なのに、すでに灼熱の晴天の下だったり、雨降りの中のずぶ濡れだったり、倉庫の中での一発労災ぎりぎりだったり、人類の限界を試す室温50度に達する温室ハウスの中だったりで……。 その日ごとに、労働力の足りていない現場に投入される日雇い農奴な不肖――

          書けん日記:34 野良仕事における出来事たち

          ものかきものがたり・5行め 「活計」

          上京して、初めての引っ越し。中野から逃亡する、一人ぼっちの引っ越し。 あの夜、喫茶店の常連だったヤクザの忠告を聞き入れた青年は……。 そのまま部屋に戻らず、バックレ生活のままに夜を過ごして、翌日すぐに不動産屋へ。バイトのおかげで、上京したときよりは手元に金はあった、わずかながらマシなアパートを探すことが出来た。 場所は、中野の西のはずれ、杉並の区境あたりにある2階建てのアパート。 そこに契約が済んだ3日後、もとのアパートに戻らない放浪生活のあとに引っ越しをした。 中野のア

          ものかきものがたり・5行め 「活計」

          書けん日記:33 ダマして悪いが、再び

          四月も後半。 汗ばむような陽気が続くと思えば、春に3日の晴れ間なしのごとく、雨降りに。そんな日々、庭の花も遊びに来る鳥たちも、冬や初春とはだいぶ様変わりをして―― そしてこの季節。目を背けていてもやってくる、運命の呼び声がこの不肖を…… とうおるるるるるる 不肖「ハイッ ああ、弟くん」(この時点で戦慄する不肖) 弟氏「ああ兄ちゃん。明日から時間ある? ちょーっと、手伝ってほしいんだけど」 ……きたこれ。実家の農業をついで、手広くやっている兄弟でもイチのやり手の、不肖の弟

          書けん日記:33 ダマして悪いが、再び