書けん日記:42 破壊と再生の合間で
弱り目に祟り目、などという言葉もあるように――
草刈りで足を怪我してしまって農奴仕事すら失ったその翌週、不肖がずっと使っていたノートパソコンが壊れた。
ウィンドウズすら立ち上がらなくなって、ネットにもマシンにも盆暗の自分ではまさにお手上げ。パソコンの中のデータも、クラウドに置いていた作業データにすら触れなくなってしまった。
そのノートパソコンは、T氏の事務所からお借りして、イタリアンマフィアの物語、デイバンとロックウェルでの戦争や逢瀬をずっと書き綴ってきた思い出のマシン。愛機。それが、うんともすんとも言わなくなってしまった。
……このときばかりは――
もはや自分には、野良仕事も、テキストを打つことすら許されていないのか、と目の前が真っ暗になった……が。
いま、noteを更新できている、ということは。
はい。
ありがたいことに、なんとかなりました。というかなんとかして頂きました。
という、破壊と再生。かなり他人任せなれど――
失ってから気づくものがあれば、取り戻して気づくものもある、という今回のお話です。
ノートパソコンが立ち上がらなくなったとき、ちょうど不肖はいつものマフィアなお仕事のテキストをいくつか頂いていたころで――それを、書けん、うまくいかぬ、とズルズル引き伸ばしていたらパソコンが動かなくなるという、バチが当たったかのようなタイミング。
もうこれは、スマフォで音声入力するしか……と途方に暮れていた不肖でしたが。
不肖の部屋には……そのノートパソコン以外にも、知人が置いていった古いマシンが一台あることに気づいて。
急遽、そちらのマシンでアカウントにログイン、なんとかテキストのお仕事を済ませてから――
不肖「何もしていないのに壊れました、あのノートパソコン」
T氏「 何もしていない が多重の意味で実に趣深いな。仕事しろ。どうせネットで変なところ触ってウィンドウズがおかしくなったんだろ」
不肖「えー。いつもの場所と、調べ物をしていくつかのサイトを見たくらいしか……。誓っていかがわしいところは覗いていません」
T氏「本当か? じゃあ来週、そのノート持って事務所に来い。診てやる」
そして、週明け。T氏の事務所にて。
T氏「このノート、セーフモードは立ち上がるな。ウィンドウズ入れ直したほうが早そうだ」
不肖「それで治りますかね。物理的に壊れていたら、さすがにもう……?」
T氏「とりあえずやってみるだ。Cドライブをフォーマットすることになるが、思い残すことはないか」
不肖「あっ。個人的に、大事なデータがいくつかありましてですね。できればそれをこのUSBメモリに……」
T氏「だから。大事なデータはOneDriveに入れとけとあれほど」
不肖「入り切らなくってぇ、仕方なくってぇ……。アッ、これこれ。このフォルダです、これ」
T氏「コピーの予想所要時間、2時間50分……あのさあ」
それから、説教を主成分とした雑談を経て――3時間半後。
T氏「ウィンドウズは再インストールできて、お前の環境も復元できた。機械はふつうに動いてる感ある、問題ないな」
不肖「物理的に壊れていたのはあっしの足だけでございました。……ええと、それはつまり――」
T氏「おまえがネットでしょうもない虫でも拾ったかして、ウィンドウズ壊したんだろな。テキスト書くのにだけマシン使ってりゃこんなことにはならねんだよ この阿呆があああっ」
不肖「ぐうの音も出ねえド正論ありがとうございます すみませんスミマセンスミマセン……このマシンで仕事します、何でも書きますから許してください」
T氏「今――と言いたいところだが。今日はもうパソコン持ってカエレ。もう夜中だよ、コピーで3時間も余計に手間取らせやがってブツブツグチグチ…」
破壊と、再生。
愛機だったマシンが動かなくなったときは、もうこの体は、この不肖は何もできず朽ち果てていくだけなのかと絶望しましたが――そんな不肖の部屋には、予備のマシンがあり、そして壊れた、否、私が壊したマシンを直してくださる方がいて。
そして――
こうして、元通りになった環境で。こうやって書くテキストを読んでくださる皆様が、居らして――
じつは、この不肖は何も失っていなかった。
(主に自分の愚かさとか慢心で)状況が変わっただけ、それを「もうだめだ」と自分で思いこんでいただけだったのが。そして、何気ない備えや、他の方の尽力でその自家製の暗闇から引きずりあげてもらえた。
それが、ここ最近の不肖でした。
痛めた左足も、くるぶしをテープで固定して保護し、静養していたおかげでいくぶんマシになり。農奴仕事、力仕事はまだ無理でも普通に歩けるくらいにはなり。
元通りになったノートパソコンで、こちらのテキストを書き、しばらく放置されていたいくつかのテキストと、SSの続きをしたため。
破壊と再生。
足を怪我して働けなくなったときは、この不肖もかなり落ち込んでいましたが――
思えば、再生、というものは破壊のその瞬間から始まっているのかもしれない、と。
修理していただいたパソコンで、テキストを打ち込みながら思う不肖でありました。
皆様、いつも本当にありがとうございます。
T氏「そういえば。おまえが後生大事にUSBで移動していたあのデータ。あれ、ネットで拾ったJPG嫁の溜まったやつか? 萌え豚は出荷よー」
不肖「(´・ω・`)そんなー あれは――テキストであんこ描写するときの、私のあんちょこ、虎の巻です。いやあ、あれが無事に回収できて助かりました、本当にありがとうございます。これであと10年はスケベなテキストを量産できます」
T氏「量産してから言え。なるほどなあ。そいつの中身が何かは詮索しないが―― くさそう(正論)」
不肖「ひどい」