上原弘二「1冊の本が出来上がるまで――編集者から見た翻訳者という仕事」JATBOOKセミナー 感想 #2
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今度は校正(校閲)について。当日、講師から校正についての話はほとんどなかったが、「校正者に求めるのはどんなことですか」という事前質問に回答してくださった。もちろん、この質問はわたしがしたものである。
ああ、それはそうよね。この日はとにかく質問数が多く、講師は質問回答だけで60分ほど使っていたはず。校正について詳しく触れることは難しかったから、あっさりとこういう回答になったのだと思う。
これについて、ある相互フォロワーの校正者からこんなポストが上がっていた。
本ポストの注目ポイントは、「ルールに従っているかどうかのチェックはサクッと終わらせることは可能で、問題はその先の校閲に当たる部分」であるとおっしゃる。
「校正」と「校閲」の違い
2つの違いは人や会社によって定義が微妙に異なり明確な線引きは難しいが、わたしはこう考える。
校正:文字が正確か、表記が適合していて適切か、統一されているか、表現が成立しているか(係り受けやコロケーションなど)をチェックすること
校閲:文章の整合性(当該箇所と前出箇所とで齟齬が出ていないか)、事実関係の正確さ(ファクトチェック)、差別表現等を含んでいないかをチェックすること
「校正」の部分はJustRight!等がだいぶ受け持ってくれる。人間は「校閲」の部分を担当する。そこにしばしば問題や齟齬が発生するという指摘が先のポストの意図であろう。
それは確かにそうなのだ。
表記は誰が決め、どうやって伝えるのか?
それに「表記」ひとつにしても「ルール」というのは誰が決めるのか。記者ハンドブックなど、従う基準を決めて校正者に伝えているのか。そうだとしても、それに合わない表記はすべて拾うのか、それとも訳文に出現する「多い方」に合わせるのか。
さらに、表記は翻訳者が決めてメモを申し送るというプロセスをとっているのか。表記にこだわりのある翻訳者の場合、校正者にとってはメモがあった方がよい。だがその分、翻訳者に作成の負担をかけることになる。そのあたり、編集者としてはどう思うか。
そのような、ちょっと細かい部分に入る質問をしたかった。
しかしこの日は文字通り質問が殺到して大幅に時間が延長されたため、それ以上の質問をすることは控えた(「翻訳者」のためのセミナーでもあるし、校正者があまり講師や参加者の時間を使うべきでないと判断した)。
だが、きっとこういったことについて、また話してもらえる機会があると期待している。
もうひとつ、翻訳会社のコーディネーターからこんなポストがなされた。この方も相互フォロワーで、加えてリアル知り合いでもある。
なお、ここからは「校正」については「校正・校閲」を合わせた語として読んでいただきたい(Xの投稿において、そういう意味で使われているので)。
翻訳書がたどる理想のプロセス
これに対して、先ほどの方が返信している。
投稿者はこれに続くポスト(自分の投稿に返信する形)で、次のようなプロセスにしたらどうかと提案されている。
わたしはこんな返信をした。これも返信なのでテキストを貼っておく。
つまり、翻訳の後に翻訳チェックを入れると訳文の質も上がるし、後から直す手間も減るのではないか。
翻訳者が表記や表現にこだわる場合には申し送りメモを作ってもらえれば、チェッカー以降の担当者はそれを見ながら作業すればよい。
さらに、訳文に大幅に手を入れられたくないという場合は、翻訳チェックのあとで編集者が原稿整理をする。ゲラに流す前のこの段階でもう一度翻訳者に戻せば、無駄な組版作業が発生することもない。
校正・校閲者はどの段階で入るべきか
わたしは、校正者が入るのは、初校が出てからがよいと思う。もちろん、訳文がほぼ完成稿であるというのが前提であるが。
ここで自分のケースについて書いておこう。わたしは「翻訳チェッカー」と「校正者(校閲者)」を兼ねている。つまり原稿整理がなされた状態で、翻訳チェックと校正・校閲をひとりで担当する。これが自分の売りでもある。
だが、翻訳出版界全体では、そういうプロセスはなかなかとりづらいだろう。翻訳エージェントには翻訳チェッカーが(外注か内製かを問わず)存在するが、翻訳書出版というプロセスにチェッカーだけ入るというシステムが確立されていないからである。
翻訳チェッカーは出版プロセスに入れられるか
上記のプロセスができればよいとは思うが、もちろん、翻訳書の出版にこれ以上工程を増やすことは難しい。
コスト増はそのまま本の値段に跳ね返る。ただでさえ本離れしている読者にこれ以上の負担を強いることはできそうもない。
だが、「予算のある(ベストセラーになりそうな)本」の場合はチェッカーを入れる。それならどうだろう。リソースはいくらでも存在する。翻訳会社に1冊の本のチェックだけを依頼すれば、エージェントは喜んで受けるはずである。出版社は考えてみる価値があると思う。